うまくいっているのに怒られたワケ

軍資金がなくなったことを伝えようとスマホを開いたら、ちょうどラインが来た。

『野村君、急ぎでファミマ来てください』

走って向かう。

「ちょうど軍資金なくなったころでしょ?」

おお、さすがベテラン。金がなくなる時間をきっちり把握してる。

「凱旋のネタはガセの可能性があるから、もうやめとこう」

ふーん、やっぱり俺は実験台だったわけか。一応謝っておこう。

「すみません。全然出せなくって」
「ははは、うーん、まあ野村君以外は割と順調だから大丈夫だよ」

なんか、チクッと皮肉を言われたような……。

「じゃあ、これ」

またしても2万円を受け取る。次はどの台を打てばいいのだろうか。

彼が目を輝かせながら語る。

「じゃあ、野村君はリゼロをそれぞれ30ゲームずつ回していって、ゾーンが良さそうだったら連絡ちょうだい。リセット後の振り分け狙いで、初当たりが軽いのを集中的にお願い!」

えええー、言葉の意味がまったくわからないんですけどー。

「リゼロ」ってのが最近の人気台のタイトルってのはわかるけど、彼の説明は専門用語ばかりで意味不明だ。どうしよ……。

「すみません。『リゼロ』は打ったことないです。っていうか、あんまりスロット自体詳しくないです」

露骨に暗い顔になった。ああ、機嫌悪そう。

「じゃあ、ジャグラー打ってください」

ジャグラーってのは、パチスロの中で一番シンプルな台だ。まあ、打ち方もわかりやすいし、初心者の俺でもなんとか打てる。

店に戻り、言われた台に座って、打ち始めた。

と、先ほどまでとは一転。今度は当たる当たる!

シンプルなゲーム性なので、特段おもしろくないが、やっぱり当選するとうれしいもんだ。

それから3回の大当たりが出て、台の下皿にコインがたまってきた。ふー、なんとか面目が保てそうだ。ちょっと、トイレっと。

5分ほどで戻ってきたら、スマホにメッセージが。

『トイレに行くなら、連絡をしてください』

はあ、トイレに行くにも逐一報告が必要なのかよ。つーか、知らぬ間に監視されてたのかよ。気持ち悪い!

『席を離れた間に、誰かに台やメダルを取られたら、野村君に弁償してもらいます』

こっわ! どこで文句言われるかわからない。気を付けなくっちゃ。

ようやく気が付いた真実

時刻は14時。長時間、慣れない動きをしているせいか、レバーを押す手がダルくなってきた。

さっきから、ちょくちょくボーナスに当たってはいるのだが、別に俺が儲かるわけじゃないので何もうれしくない。

最初は当たりが珍しかったので内心喜んでいたが、慣れてきたら、別に俺の金じゃねーし、という投げやりな気持ちになってしまった。

それと同時に、ハズレても悔しくない気持ちも強くなってくる。さっきまで俺だけ勝てないのは申し訳ないと思ってたけど、スロットの勝負と俺の損得に関係がないことに遅まきながら気が付いた。

はあ、今となっては他のメンバーが根暗な雰囲気だったのもうなずける。俺もいまあんな表情でレバーを押してるもんな。

当たってもうれしくない、ハズレても悔しくない。どんどん感情がなくなっていく。