正常化バイアスが警報の邪魔をする

音声をうまく活用できないもうひとつの例が、施設などにおける警報の類です。

これはセキュリティー会社の方が私たちに相談にきた例ですが、彼らは火事が発生した際に「落ち着いてください。屋外に出てください」のような警報を録音した音声で流してもあまり機能しない悩みを抱えていました。

堀内進之介、吉岡直樹『SENSE』(日経BP)

これは、多くの人は警報が流れても、「誤作動だろう」、「多分大丈夫だろう」と正常性バイアス(自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価したりするという認知の特性)が働いてしまうからです。

「警報が流れたらさすがに逃げるのでは」と思われるでしょうが、いざ現場にいると逃げないものです。

実は、私自身がそのような現場に遭遇した経験があります。博物館にいるときに警報が鳴って、録音された音声が流れたのですが、周りの人も含めて避難する人はほとんどいませんでした。

しばらくすると、録音された音声が突然途切れて、警備室から「今、警報がなっています。確認中ですが、念のため全員外に出てください」と人の声でアナウンスがありました。その瞬間にあれほど動かなかった人たちが一斉に動き出しました。人の声による割り込みが正常性バイアスを解いたのです。

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