商品やブランドの開発には、沢山のこだわりが込められているにも関わらず、それらが十分に表に出ず、限られた人しか知らずに埋もれていることが少なくない。しかし、せっかくのこだわりは、物語として伝えて、商品価値に変えて有効活用しなければ、もったいない。
①アシックス物語:大谷翔平選手を支える二刀流スパイク開発のこだわり
米メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手の履く二刀流スパイクには、アシックスがこだわり抜いた開発の物語が秘められている。投手と野手(打者)の二刀流で活躍する大谷選手の足元を支えるアシックスの「二刀流スパイク」は、実はテニスシューズの技術を野球のスパイクに組み合わせることで実現した世界初の商品だ。
もともと、野球の投手と野手は異なるスパイクを履く。投手は投球のとき、軸足のつま先が地面とこすれるため、その部分に補強用の革を付けた投手用スパイクを履く必要がある。そのため、左右のスパイクに約40グラムの重量差が生まれ、左右のバランスや感覚に微妙なズレが生じることから、大谷選手は日本にいた頃、投手と野手でスパイクを履き替えていた。
しかし、メジャーリーグ挑戦にあたって、スパイクを履き替える手間や感覚のズレをなくすために、投手でも野手でも履ける二刀流スパイクをアシックスから提案し、開発したのが、補強用の革を取り除き、代わりに軽くて摩擦に強いポリウレタン樹脂でつま先から外側にかけて覆った、左右同じ重さのスパイクだ。
テニスシューズの素材を使うことで生まれた世界初の二刀流スパイク
この素材は、アシックスが契約するテニスのノバク・ジョコビッチ選手のシューズ開発で利用されていたものだ。数時間に渡りストップ&ダッシュを繰り返すテニスの激しい動きに耐えられる強度の素材を、初めて野球のスパイクに組み合わせたのである。当初、ポリウレタン樹脂を使ったスパイクは、従来の革よりも摩擦に強い代わりに硬く、しなやかさが足りなかった。そこで、つま先以外の部分をより薄く加工することで、投球の負荷に耐え、打撃のスイングの動きに合わせて柔軟に曲がる、世界初の二刀流スパイクが実現された。
この二刀流スパイクは、大谷選手から「投打で同じ感覚で履ける」と愛用され、進化を続ける二刀流の活躍を支えている。幅広いスポーツ商品を手掛けるグローバル・メーカーのアシックスだからこそ、野球とテニスの技術を組み合わせ、一足で「投・打・走」を可能にする特別なスパイクを生み出すことができた。この開発の物語を知ることで、アシックスの商品に対して感じる評価(知覚品質)は高まるだろう。