教育、スポーツで深める結束
私は学生時代、ニュージーランドに1年ほど留学していたことがある。国立のオークランド大学に通っていたのだが、そこで初めて英連邦の結束の強さを知った。当時大学には、香港、マレーシア、シンガポールをはじめ、多くの英連邦に所属する国や地域からの留学生がいた。彼らの授業料は無料。また、彼らの自国の教育システムもニュージーランドの教育システムも英国式で、高校までの成績評価システム、必要な単位なども共通。このため、ニュージーランドの大学への入学は極めてスムーズだ。
また、彼らは、4年ごとに行われるオリンピックのようなスポーツの総合競技大会、コモンウェルスゲームス(Commonwealth Games)の話で盛り上がり、クリケットやラグビーの試合についてもしょっちゅう話題に上っていた。英連邦ではない国から来た私は、ちょっぴりその結束や、共通言語となるスポーツや文化がうらやましかった記憶がある。
しかし、植民地として支配されていた国々が、なぜそんなに誇らしげに、楽しそうにかつての宗主国の文化で盛り上がるのか、不思議だったのも確かだ。世界のリーダー的存在であるイギリス傘下の制度の恩恵を享受できるとともに、大きな共同体の一部という安心感があったのかもしれない。
旧植民地だった国々の、イギリスの植民地支配に関する過去の苦い歴史は消えたわけではない。エリザベス女王の死がきっかけとなって、過去の植民地主義に対するくすぶっていた議論が再燃するのではないかという声もある。
エリザベス女王亡き後の英連邦
エリザベス女王死去後の9月10日、カリブ海の島国、アンティグア・バーブーダのガストン・ブラウン首相が、イギリス国王を国家元首としない共和制に移行するかを問う国民投票を、3年後に実施すると発表した。アンティグア・バーブーダは現在、英連邦王国の一つで、イギリス国王を国家元首としている。
また、昨年11月、同じく英連邦王国の一つでカリブ海の島国バルバドスは、エリザベス女王を君主とする君主制から、共和制に移行した。ジャマイカでは今年3月、ウィリアム王子が訪問した際、植民地支配の謝罪を求める抗議デモも起こっている。8月には、ガーナの大統領がヨーロッパの国々に対し、「奴隷貿易によって経済的、文化的、精神的に、アフリカが発展するのを遅らせた」とし、賠償金を払うべきだと発言している。
オーストラリア、バハマ、ベリーズ、カナダなどでも、似たような議論は起きている。ただ、それが今まで大きなうねりにならなかった背景には、エリザベス女王の存在もあった。女王は在位中、120カ国以上を歴訪し、各国のリーダーと対話してきた。第2次世界大戦後に植民地が次々と独立した時は、それを止めようとはせず、独立した国々を支援してきた。時には勲章を与え、時には自ら語りかけることで、エリザベス女王は過去のイギリス帝国の負のイメージと一線を画すことができたとも言われている。