アプリが顧客の購買行動を邪魔してはいけない

【田中】ウォルマートはコロナ禍で一気にデジタル化が進み、スマホで顧客とつながることで膨大なデータを入手して、今までは取れていなかったデータが入手できるようになり、それを顧客体験価値の向上と広告事業に活かしています。ベイシアではまず、アプリとスマホで顧客とつながることが入り口でしょうか?

【相木】そうですね。さらにデータ分析で高度化していきたいと思っています。同時に忘れてはいけないのは、お客様の購買行動を邪魔するような提案をしてはいけないということです。うっとうしいと思われるような提案は避け、普通に買い物に来られた方も楽しめるようなデジタル体験をつくれるかが大事です。

【田中】そういう意味ではアマゾンは参考になりますね。BtoCの消費者の利益とBtoBの事業者の顧客の利益が対立したときは、BtoCを優先している。アマゾンの広告事業も、消費者を優先しているからこそ伸びていると思います。デジタル化を推進する上で意識してベンチマークしている会社はありますか?

【相木】業界の中で私たちより進んでいる企業はベンチマークしています。もっと力を入れたいのは海外の企業の視察です。私が参画した1月以降は海外に行けていませんので、アメリカはもちろん、中国の「フーマー」(注)は自分の目で見たいですね。いつになったら行けるのかなという感じですが、海外の勉強もしていきたいです。

(注)アリババグループが「ニューリテール(新小売)」のコンセプトで運営する中国のスーパー。

【田中】私もコロナ禍で中国に行けなくなりましたが、日本からリサーチしているとフーマーも常にアップデートをしています。どんどん新しい業態が生まれていますが、日本から新しい業態は生まれていません。例えばフーマーだと、都心部ではスマホで注文すると店頭で商品をピックアップし、配送するようなものも出てきたり、新業態が現れているので、アメリカ以上に中国をベンチマークするべきですね。

【相木】そのあたりも田中先生にご指導いただきたいと思っていますが、必ずしもフーマーがやっていることはテック企業の領域だけではないと思っています。店舗に生け簀があってその場で食べられるというライブ感もありますし、買いたいけれど重くて運ぶのが手間になる商品をデリバリーもしてくれます。フーマーから学ぶことはたくさんあると思います。

デジタルの仕組みを他社に外販する動きは出てくる

【田中】今日はデジタルシフトタイムズの取材でおうかがいしていますので、デジタル化についてのお考えをぜひ教えてください。

【相木】商品の磨き込みですね。生鮮も一般食品も同じですが、もっともっと磨けるところがあると思います。ここが弱いといくらデジタルでがんばっても勝てません。

【田中】ネットスーパーでは三重県にあるスーパーサンシがいち早く収益化に成功されて、最近ではシステムを他社に提供する試みも始めています。相木社長もベイシアで培ったビッグデータ×AIの仕組みを他社に提供する予定はあるのでしょうか?

【相木】本当にまだなにもできていないのでおこがましいのですが、同様の企業は今後も出てくると思います。それも含めて土屋(裕雅会長)の危機感だと思いますが、今までスーパーがやっていたことを超えて、デジタルの仕組みを他社に外販していく動きは出てくるでしょう。

そして、これからは小売業が製造業になっていくと予想します。小売の業界では他業界で起きていることが十分に徹底されていないので、自分たちが生産者と深い関係を結び、ものづくりまでやっていく。そういうところにまでチャレンジしたい思いはあります。ただそこまで簡単ではないから他社も実現できていないわけですから、慎重に考えて進めていきます。

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