ペンライトを前向きに振ると活躍したキャラに魅力を感じる

なんとおもしろいことに、ライブ鑑賞のようにペンライトを振っていた時に活躍していたキャラクターだけ、実験後の評価で魅力度が突出して高くなっていたのです。

久保(川合)南海子『「推し」の科学 プロジェクション・サイエンスとは何か』(集英社新書)

ペンライトを後ろ向きに振ったキャラクターや、ペンライトを振っているのに活躍していなかったキャラクターの魅力度は、実験前後で変化していませんでした。好みや強さには、どの条件でも違いは見られませんでした。4人のキャラクターに対してどのようにペンライトを振るかは、参加者ごとに変えていましたから、これはキャラクター固有の魅力度や好み、強さを反映した結果ではありません。

この実験からわかることは、応援しているというつもりはないのに、ペンライトを前向きに振った時、その先にいるキャラクターが活躍していたら、そのキャラクターが魅力的に見えてくる、ということです。それだけ、自分がとる行動はこころに大きな影響を与えることがわかります。

実験前にはほとんどフラットな状態だった参加者のこころでさえこうなるのです。そもそも自分が好きな対象の活躍を、意識的に能動的に全身全霊で応援するという行為が、どれだけ対象の魅力度を爆上げするか、あらためていうまでもないでしょう。

感想をSNSに書いたり、グッズを集めたりする行為も同様

ただ一方的な受け身のファンでいるのではなく、自分から対象に働きかけることによって行為が生まれます。すると、その行為はこころに影響して、また新たな行為となり、それがさらにこころへ影響を……というエンドレスな循環が起こります。

この実験は対象が映像でしたから、応援によって対象の様子が変化するということはなかったのですが、対象が現実世界に存在するのであれば、応援によって対象が変化することもあるでしょう。声援に応えてくれることだってあるかもしれません。そうなればさらに、こころに影響する要素は増えることになります。

このような循環の効果は、応援だけに見られるわけではありません。感想をSNSに書いたり、グッズを集めたりする行為も同様です。つまり、自分が好きな対象に働きかけることは、自分の「推し」に対する想いが際限なく増幅されていく、底無しの循環システムのなかへとびこむことにほかなりません。「推し」のいる人たちが、そのような自分と「推し」のありようを「沼」と表現しているのはたしかにそのとおり、ある意味とても写実的とすらいえるのです。

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