アイドルやアニメの愛好者は、自身のはまり具合を「沼」と表現することがある。なぜなのか。愛知淑徳大学心理学部の久保(川合)南海子(なみこ)教授は「認知科学において、身体と感情はわかちがたく結びついていると考えられている。応援したり、SNSに書き込んだり、グッズを買い集めたりするほど、沼のように『推し』の深みにはまってしまう」という――。

※本稿は、久保(川合)南海子『「推し」の科学 プロジェクション・サイエンスとは何か』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

ライブでペンライトを振る人
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「ファン」と「推し」では何が違うのか

あなたには「推し」がいますか? 「推し」がありますか?

「推し」とは、簡単にいえば、とても好きで熱心に応援している対象(人や事物など)のことです。もともとは、女性アイドルグループのなかで自分がもっとも熱心に応援しているメンバーを指すファン用語でした。それがここ数年のうちに、さまざまなジャンルのファンにも知られるようになり、いまや一般的に使用される言葉となっています。

対象もアイドルだけでなくアーティストや役者やタレント、アニメやマンガやゲーム、ドラマや映画や舞台や小説、スポーツや物や事柄など、この世界のあらゆるものすべてが「推し」になりえます。

ここで「推し」についてはじめて知ったという人は、こう思うのではないでしょうか。なるほど、つまり「私は○○のファンです」というのを、いまどきふうに言うと「私の推しは○○です」ってことか! けれど、すでに「推し」についてよく知っていたり、自分に「推し」がいる(ある)という人は、そういわれるとちょっと違うんだよね……と思うかもしれません。

では、ただのファンと「推し」は、いったいなにが違うのでしょう。