食中に飲む日本、食前・食後に飲むアメリカやイギリス
フランス人ジャーナリストのピエール・ブリザール(前AFP通信東京支局長)の分類によれば、世界の飲食文化は「ワイン文化」と「ウイスキー文化」とに分かれるという。前者は食事をしながらアルコール飲料を楽しむ文化であり、後者は食事の前後にアルコールを嗜む文化である(注)。
注:ブリザール、ピエール(1982)「文化としての酒について」『比較文化の眼──欧米ジャーナリストによる飲食エッセイ集』TBSブリタニカ、pp. 27–42
個人的に筆者が経験した「ウイスキー文化」のあり方を示そう。筆者が、米国と英国で知人の家に招かれたときのことだ。
まずは、応接間でビールなどで談笑する。いきなり食卓に就くことはない。話も一段落したら、ダイニングルームで夕食がはじまる。このときお酒はあまり飲まない(最近ではワインを飲むことは増えた)。デザートとお茶で夕食が終わると、再び応接間に移動してウイスキーなどの蒸留酒を楽しむ。主役は、あくまでも談笑と、たまには真剣な議論である。お酒は脇役といってよい。
「ワイン文化」圏は、欧州南西部のラテン系諸国であるフランス、イタリア、スペイン、ポルトガルなどであり、「ウイスキー文化」圏は、英国、北欧諸国、米国などである。
ブリザールは日本通だが、おそらく「ワイン文化」基準が強すぎて、日本を「ウイスキー文化」に分類している。だが、社会学者の飽戸弘(東京大学名誉教授)によれば「食べながら飲む」という意味において、日本は「ワイン文化」だとする(注)。筆者も同意見である。
注:飽戸弘・東京ガス都市生活研究所(編)(1992)『食文化の国際比較』日本経済新聞社
日本はホームパーティを開かないのに家飲みが多い
飽戸らは、食生活と酒文化の国際比較を行っている。調査時点は1990年で、調査対象は東京、ニューヨーク、パリの3都市である。各都市で1000サンプルに対して面接調査を行った。
図表5から以下のことがわかる。第1に、週に1~2回以上の頻度で外食するのはニューヨークで50パーセントを超える。第2に、東京もパリも、週1~2回以上外食するのは2割程度である。逆にいえば、残り8割は、ほぼ家庭で夕食を摂る。
図表6は飲酒頻度の比較である。これは外食頻度とは対照的に、ニューヨークが低く、東京とパリが同程度に高いことがわかる。
これらから、2つのことがいえる。第1に、ニューヨークでは夕食の外食頻度が高い割に飲酒頻度はむしろ低い。これは、外食の多くが、家事時間の節約のためのカジュアルなものであって、お酒を飲むほどフォーマルなものではないことを示唆する。
第2に、東京とパリでは、「家庭で食べながら飲む」人が多い。その意味で、日本もフランスと同様に「ワイン文化圏」の飲食スタイルに近いといえよう。ただし図表は示さないが、日本とフランスの違いは、パリでは月に2~3回以上も友人や知人を家に招いての夕食を摂るのが6割弱も存在することである。これに対し、東京では1割未満である。つまり、日本は家族だけの家飲みが多いのである。