ロシアから原油を大量に買い付けるインドの本音
5月24日、東京で日米豪印で構成する「クアッド」の首脳会合が行われました。日本政府の説明によれば、
自由や民主主義という基本的価値観を共有した4カ国の協力体制のはずなのに、この首脳会合後に発表された共同声明に、ロシアを非難する内容は含まれませんでした。日米豪と、インドの立場が違うからです。
インドの本音は、中国に対して日米豪と連携して対抗し、実利を得ることです。日米豪の民主主義対権威主義という価値観の対立軸に対して、インドは地政学的な勢力均衡の原理を重んじているのです。
アメリカのバイデン大統領は、クアッドを、中国とロシアに対抗する準軍事同盟に転換したいと考えていました。そのもくろみは外れました。ウクライナ戦争に関して、インドが日米豪やEU諸国と共同歩調を取らず、ロシアから原油を買い付けるのは、もっともなことです。
アメリカへの対抗軸
西側諸国は、エネルギーの価格高騰とインフレを招き、自らの首を絞めている格好です。経済制裁に対抗するカードとして、ロシアはエネルギーを巧みに使っているのです。
プーチン大統領は、7月19日にイランを訪れました。同じくイランを訪れているトルコのエルドアン大統領とウクライナへの侵攻後、初めて対面で会談し、黒海を経由したウクライナの穀物輸出を再開させる道筋をつけました。最高指導者のハメネイ師からはウクライナ侵攻への支持を取り付け、北大西洋条約機構(NATO)を「危険な同盟」だとする発言を引き出しました。さらに、
具体的には、ロシア国営の天然ガス企業ガスプロムが、イラン国営石油会社に対し、ガス田開発やパイプライン建設などに関して約400億ドル(約5兆5000億円)相当の事業協力を行うことになりました。イスラーム共和国通信によると、イラン経済史上最大規模の国際投資協定になるとのことです。
エネルギー問題に関しても、プーチン大統領がアメリカへの対抗軸を築こうとしているのは明らかです。そこで注目されるのは、11月に行われるアメリカの中間選挙です。バイデン大統領率いる民主党が大敗すれば、世界情勢はドラスティックに変わるでしょう。エネルギー不足と物価高で厭戦ムードの漂い始めたEU諸国から、アメリカについていかなくなる国が出てくる可能性もあります。
日本企業の権益が維持できたロシアの石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン2」からいまのところ天然ガスを輸入できている日本も、もちろんひとごとではありません。天然ガスの奪い合いが世界中で起こり、価格も上がっているからです。
付け加えれば、こんなに暑い時期から冬の暖房問題を心配しているドイツのエネルギー自給率は35%で、日本のエネルギー自給率は11%にすぎません(2020年)。2019年で言えば、OECDに加盟する36カ国中、ルクセンブルクに次ぐ35位という低さなのです。