ロシアとウクライナの戦争は、今後どうなるのか。元外交官で作家の佐藤優さんは「ロシアはインドに大量の原油を輸出している。その結果、エネルギー輸出で戦費を上回る収入を得ている。西側諸国による経済制裁の効果が出ているとはいえない」という――(連載第21回)。
社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の連立委員会の審議後の記者会見に出席するオラフ・ショルツ首相(SPD)(=2022年9月4日、ベルリン)
写真=dpa/時事通信フォト
社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の連立委員会の審議後の記者会見に出席するオラフ・ショルツ首相(SPD)(=2022年9月4日、ベルリン)

欧州のエネルギー不足は深刻

この冬のエネルギー不足を懸念するニュースが、ドイツを中心としてヨーロッパから頻繁に伝わってきます。

ドイツのロベルト・ハーベック経済・気候保護相は12日、ロシアによる欧州への天然ガス供給削減を受け、冬の間、ガス消費量を抑えるために公共施設での暖房の設定温度を19度に制限すると発表した。(8月13日・AFP=時事
ロシア産天然ガスの不足による価格高騰に伴い、ドイツでガス料金に上乗せして徴収する賦課金の基準額が15日発表された。欧州メディアによると、平均的な4人家族世帯で年間480ユーロ(約6万5千円)程度の負担増となる。(8月16日・共同)

ロシアは6月中旬以降、ヨーロッパ向けの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」の供給量を6割削減させ、7月11日から保守点検を理由に供給を中断しました。7月21日に再開しましたが、輸送量は供給能力の約2割にとどまっています。

ヨーロッパがロシアを切り離せない根本理由

「国際エネルギー機関(IEA)」は、アラブ諸国の「石油輸出国機構(OPEC)」に対抗して西側が1974年に作った組織で、29カ国が加盟しています。

IEAの試算によると、冬の暖房需要が高まる10月にロシアからの供給が完全に途絶える場合、欧州が冬を乗り切るにはガス貯蔵施設で最大能力に対して9割以上のガスを保有しておく必要があるという。IEAが「9割の貯蔵率を達成することはまだ可能で、残された日を大切に今すぐ行動すべきだ」と警鐘を鳴らした。(7月19日・日経

今年の冬の暖房事情は危機になる恐れがある、というのがヨーロッパに共通する見通しです。

日本は、天然ガスをマイナス162℃まで冷やして液化したものを、船で輸入しています。液化すると体積が約600分の1に減るので、輸送や大量貯蔵に便利なのです。しかしロシアからパイプラインで天然ガスが送られてくるヨーロッパには、液化してから再度ガスに戻すような設備がありません。ロシア頼みに見切りをつけようとしても、急に他国からの調達へ切り替えるわけにいかないのです。