「周囲との差」がうつ病につながってしまう

70代は世代全体の10%が認知症になる一方で、残りの9割の人は頭が中高年の人と大して変わりません。また、外見にしても若いときと変わらずに背筋がぴしっと伸びている人もいれば、すでに車いす生活に突入している人もいたりと、健康な人とそうでない人の差が顕著に出る世代です。

仕事にしても、定年退職して家で隠居生活を送る人もいれば、いまだに社長や専門家として活躍し、その業界の権威として辣腕を振るう人もいます。

そのため「あの人に比べて自分は生きている価値がないのではないか……」と引け目を感じやすい年代ともいえます。

一方、自分は健康であっても、同級生の病気や死などを垣間見る機会が増えていくため、「自分もああなってしまうのではないか」という恐怖感を抱いてしまうことも。こうした感情が積もり積もってうつ病を患う人は少なくありません。

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「社会から相手にされていない」という絶望感

60代以降の人がうつ病になりやすい理由の一つは、愛する対象を失いがちな時期であることも関係しています。

精神医学ではうつ病を患う最大の要因は、愛する対象を失ったときだと、長い間いわれてきました。親や配偶者の死は、人生における最大の喪失体験になります。60代以降は、親が80代、90代を迎え、親の死と直面することの多い年代です。配偶者の不慮の死は、それよりは少ないですが、ショックの度合いははるかに大きなものです。

また、もう一つの大きな喪失体験となるのが、定年です。

精神科医の間では、「定年後にうつになる人が非常に多い」というのは、よく知られた話です。

特に日本の男性は、仕事を通じた人間関係が非常に濃密に作られています。お酒を飲む相手も、ゴルフに行く相手も、麻雀をする相手も、すべてが会社に関係した人間関係であることが多いため、定年退職した途端に人間関係を失ってしまう人が少なくありません。こうした喪失体験で心にダメージを受けて、うつ病につながってしまうのです。

また、仕事を通じて、自分の存在を認めてもらったり、仲間意識を抱いたりすることが多いので、会社を離れることで、自己愛が満たされずに気持ちが落ち込んでしまうケースもあるでしょう。

特に、管理職や役員などの高い地位にいた人ほど、会社内で丁重に扱われることが多かったので、会社を辞めてそのような人間関係をすべて失ってしまうと、「社会から相手にされていない」「無視されているのではないか」と絶望感を抱いてしまいやすいのです。