年齢を重ねるとなぜ物忘れが始まるのか。老年医学の専門家である和田秀樹さんは「認知症のせいだと思う人が多いが、実は老人性うつ病の症状かもしれない。高齢だから仕方ないと放置しておくとどんどん悪化するので、予防と早期発見が重要になる」という――。

※本稿は、和田秀樹『60歳からはやりたい放題』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

公園のベンチに座っている孤独なシニア老人
写真=iStock.com/Jelena83
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夜中に目が覚める、物忘れが始まるのは「うつ病」

認知症と並んで、歳を重ねたときに気を付けなければならない病気が「老人性うつ」です。老人性うつは、非常に自覚が難しい。だからこそ、危険なのです。

たとえば、最近、食が細くなって、夜中に何回も目が覚めるというお年寄りの話を聞いたとき、あなたはどう思うでしょうか。あるいは、物忘れが始まって、その上、着替えもしなくなり、お風呂にも入らなくなったお年寄りの話を聞いたとき、どう思うでしょうか。

「年齢だから仕方ない」「おそらく認知症だろう」と思う方がほとんどだと思います。しかしながら、これらは「うつ病」の症状でもあるのです。

「もう生きていたくない」「早くお迎えがきてほしい」などというネガティブな発言を若い人がしていれば「これはうつ病の症状ではないか」と気付かれるものですが、高齢の人が似たようなことを呟いていると「また気弱なことを言って。でもお年寄りにはよくあることだから」と見過ごされてしまうこともあります。

加齢のせいにして本人すら自覚できないことも

気力ややる気の低下も、若いうちであればうつ病の症状だと誰もが気が付きますが、高齢者の場合は、「歳を取ったのだから当たり前だ」と加齢のせいにして、本人すら自覚できないことも多いのです。

老人性のうつ病の存在は、あまり問題視されていません。それゆえに、今日もあちこちで自殺などの悲劇が生まれています。何より怖いのが、こうした事実を知らず、本人や周囲が「認知症かも」と誤診してしまうこと。認知症の場合、中期以降では本人はつらくないことが一般的ですが、うつ病は本人がつらい思いをしています。

適切な診察を受けて、薬を飲むなどすれば良くなることも多いのに、高齢だから仕方がないと放っておくとどんどん悪化していき、次第に脳も変性して、今度は本当の認知症へとつながってしまうことも珍しくありません。