ドキュメンタリー制作班が試みたボトムアップ

富野由悠季監督の初展覧会「富野由悠季の世界」展をモチーフにドキュメントBlu-rayを作った時のことです。

写真=ドキュメンタリー映像『富野由悠季の世界』より
企画展「富野由悠季の世界」@青森県立美術館の様子

この企画の中で、私たちは富野監督がこれまでに話したことのないクリエイターをブッキングして対談を組もうと計画していました。しかし、肝心の候補者選びが難航しました。富野監督はトークショーや雑誌の企画ですでに多くの対談をこなしていたので、新しい相手をなかなか見つけることができなかったのです。

「富野由悠季の世界」©手塚プロダクション・東北新社 ©東北新社 ©サンライズ ©創通・サンライズ ©サンライズ・バンダイビジュアル・バンダイチャンネル ©SUNRISE・BV・WOWOW ©オフィス アイ

そこで私たちは富野監督との打ち合わせで、ひとつの実験をしてみました。富野監督がこれまで触れてこなかったジャンルについて話題を振ったのです。そのジャンルは「ゲーム」。ゲームの世界には、いまだ富野監督が対面していない突出したクリエイターが複数います。そのとっかかりとして富野監督がゲームについてどう反応するのか探りをいれてみたのです。

しかし「ゲーム」という言葉を聞いた富野監督は顔色を変えました。ジャンルとして興味がないばかりか、最近のゲームには怒りさえ感じると言うのです。「ゲーム」関連の人物との対談はその場で却下されました。

ドキュメント制作チームは場を改めて可能性を模索することにしました。当の本人が「ゲーム嫌い」であるからこそ、成立すれば斬新な対談を新しいBlu-rayに収録できますし、富野監督にとっても新しい刺激を得られる機会になり得ると考えたのです。

対談相手を探して

まず私たちは富野監督のゲームへの拒否反応を振り返ってポイントをふたつに絞りました。

①近年のゲームには結末がなく、無限に続けさせる仕組みを作っている。
②他人を傷つける行為が快楽として過剰消費されている。

ふたつを眺めているうちに、私たちはとあるゲーム・クリエイターを思いつきました。それがヨコオタロウさん。ヨコオさんは富野監督の言う「他人を傷つける快楽」を逆手に取ったゲームを作っていたからです。

ヨコオタロウさんがディレクターをつとめたPS4用ゲームソフト『NieR:Automata(ニーア・オートマタ)』

ヨコオさんの代表作『NieR:Automata(ニーア・オートマタ)』は、強靭な武器を持った美しい女性キャラクターを操作して、敵を鮮やかに殺めていくアクションRPGです。まさしく他人を傷つける快楽がコントローラーを通じて生々しく反復されます。しかし、物語のある時点でこれまで倒してきた相手が自分たちの敵ではない可能性がほのめかされます。これまでプレイヤーが味わってきた快楽が強ければ強いほど、罪悪感が増す背筋の凍る仕掛けです。

PlayStation4のソフトとして発売された『ニーア・オートマタ』は全世界で累計600万出荷を超える大ヒットとなっています。世界観、物語、キャラクターどれも強いオリジナリティを感じさせる作品です。ヨコオさんは今後、爆発的に広がると目されるゲーム市場の未来を占うキーパーソンのひとりです。