すでに社員の国内外での活躍の場を広げるための能力を底上げする施策も展開している。1つは社員がこれまで積み上げたキャリアや人事評価を含む個人のデータベースの構築である。人事情報のITインフラの整備は、グローバル人材マネジメントを行ううえでの不可欠なツールであり、すでに国内2万5000人と海外の幹部社員のデータベース化を今年1月に完成。いずれ全世界の社員のデータベース化を図る予定だ。

もう1つの社員の能力発揮の“装置”が11年4月に設置された「キャリアデザインセンター(CDC)」だ。個別のキャリアカウンセリングの実施や、キャリアデザインセミナーなどを開催する。

キャリア開発研修は昇格者を対象に、それぞれの自分の強みを整理し、社内でのキャリア形成を考える。キャリアデザインセミナーは40代向けと50代向けの2種類があり、自分の人生設計を含めたキャリアの伸長を図ることを目的にしている。

最大の狙いは、自らのキャリアは自ら描くという自律的なキャリア形成にある。従来の日本企業では、個人の希望というより、会社が描く一人前の人材に育てることを目的に、一定のジョブローテーションに従って養成していくというパターンだった。しかし、会社に言われるままのキャリアを磨くだけでは本人の成長はもとより、会社にとっても期待以上の成果は得られないという認識がある。

「キャリアは会社が与えるものであり、異動を命じられたら黙々と従うというのが日本企業のやり方でした。そうではなく、なりたい自分になるにはどうすればよいのか、それを会社として支援するのがキャリアデザインセンターの目的です。もう1つはグローバルで勝負しないといけない中で、もっと社員の専門性を高める必要があるという問題意識を持っています。たとえば私が外資系に勤務していたときの社員は、その道20年、30年を経験している人が多く、非常に専門性が高い。それに比べて一部の日本企業の場合は、若いときにいろんな仕事を経験させるのはよいとしても、専門性の観点ではどうしても低くなります。そのやり方を全面的に否定はできませんが、それではグローバルで勝てないのではないか。自分の関心と適性がある領域で能力を大きく伸ばせるような選択肢を提供していくことが必要だと思っています」(大月部長)

資生堂は1872年の創業当時に「書生堂」と呼ばれたように、人材育成に熱心な企業として知られる。06年には「魅力ある人で組織を埋め尽くす」ことを狙った資生堂「共育」宣言を策定している。そして今、グローバル経営を基軸に国内外の競争に打ち勝つための新たな人材創造にチャレンジしている。同社の試みは、他の日本の大手企業にも影響を及ぼすことは間違いないだろう。