そのための素地は整いつつある。同社のグループ社員は約4万5000人。うち外国人が2万人を占める。現地法人は40社近くあるが、年間十数人の責任者クラスが日本から海外、あるいはフランスからアメリカという多国間異動を行っている。現地法人の社長の日本人と外国人比率はほぼ半々と拮抗し、副社長やダイレクタークラスの幹部役員は、日本人約80人に対し外国人約240人。経営の現地化も着々と進んでいる。

すでに先行しているのが研修機能だ。1つが07年からスタートした「資生堂グローバル・リーダーシップ・プログラム」(SGLP)。本社の部門長や現地法人、関連会社の社長クラスを対象に「資生堂本社で役員を担える人を育成する」(大月部長)1年間のプログラムである。

汐留本社での研修を皮切りに、スイスのローザンヌにある欧州トップランクのビジネススクールのIMDと提携した研修メニューが用意されている。

参加者は同社の役員で構成する「人材審議会」が選抜した計14人。五期目の今年3月卒業の研修生の内訳は日本人7人、外国人7人。彼らを含めると卒業生は70人弱になるが、末川社長がその第一期生であり、多くの執行役員を輩出している。

さらに11年からは、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、中国の世界の4拠点で現地の副社長、ダイレクタークラスを対象に現地法人のトップを養成する「資生堂リージョナル・リーダーシップ・プログラム」(SRLP)をスタートさせている。

ここまでは、日本のグローバル企業が推進している施策とほぼ同様の内容である。多くの企業は現地法人の人材を育成・登用し、現地の社長に予算や人事権などの裁量を与え、本社はトップをコントロールするという経営の現地化を推進している。しかし、資生堂はそうした方向性を志向しない。目指しているのは、日本を含む世界の国・地域からグローバルリーダー候補を発掘し、世界レベルでの適材適所の配置を実現するグローバル人材マネジメントの構築だ。

その土台となるのが11年4月に策定した資生堂グループの新しい企業理念だ。ミッション(企業使命)、バリュー(価値観)、ウエイ(行動規範)の3つで構成され、世界の資生堂グループの社員に共通する価値観として「多様性こそ、強さ」「挑戦こそ、成長性」「革新を続ける伝統こそ、卓越した美を創造する」を掲げている。

「人事施策を含めて、これまでは国内と国外で違うことをやっていましたが、今後はグローバルカンパニーとして打ち出す人事施策は、国内外で同時にやるというパラダイムシフトを起こしていきます。その最初の取り組みがグループ社員4万5000人に発信した企業理念。これを浸透させるために、企業理念に基づく行動様式モデルを国内外の全社員向けに作成し、グローバルな人材マネジメントを確立していくことにしています」(大月部長)