90歳になったら、80歳のおじいちゃんに料理を教えたい

――今は寝ても起きても365日、24時間稼働中といった状況でしょう。

そうですね。ただ選んだテーマがよくて、料理が趣味で、料理が仕事で、料理が好きな家事。そうすると仕事と趣味を兼ねて晩御飯までもできているということになるので、効率がいいんですね。

――その思考パターン、24時間365日自分のやっていることを考える、というのはデジハリやUPUにいた頃にもありましたか。

UPUのころは、若かったし、自分の中で迷いがまだたくさんありました。会社の業績も厳しいころだったから、かつての景気がいい頃を羨んだりもしていて、まだその思考はなかったです。勢いのあるデジハリ時代にはそうした思考でした。

――愚問かもしれませんが、サラリーマンを辞めてよかったと思いますか。

よかったですね。90歳になったとき、80歳のおじいちゃんに料理を教えたいと思っています。転職してパパ料理研究家になった瞬間に僕には引退がないんです。この次は、誰かにやられる前にジジ料理研究家になります。そういう意味では生涯のライフワークになるなと。

――なにか自分の境遇に悩みを抱えていたり、迷いがある読者に、滝村さんならどういうアドバイスをしますか。

今の時代はアウトプットできるツールがたくさんあって、反応もわかりますよね。たとえば銀行員であっても、盆栽が大好きな人なら、それを情報発信してみたらいい。すると、どこまでその1テーマで情報発信していけるか、もしくは飽きるのかを試すことができます。ここで書くのもメンドクサイし……と飽きたら、無理。

なにか新しいことを始めるというのは必ず発信力が大事なのと、なにかモヤっとしているものを明文化していく力が必要。それは大きな組織をつくったときでもおそらく一緒です。

――それが「思う力」と「伝える力」の両輪になっていくということですね。

はい。その練習法としては、思ったら誰かに伝えにいく。

ただし一度伝えてもまったく分かってもらえなかったり、伝わるまで数時間もかかったり、けなされたりします。思って伝えて、思って伝えて、思って伝えてを経てやっと固まっていく。

――そこでへこたれてはいかんということですね。

もしそこで強く言われて凹んで、もうあかんと思うならそこまで。

あと新しいことをするときにすごく大事だと思っているのが、人に伝わる目安として親に分からない商売は成功しないと思っているんです。親にすら説明できないなんて説明力がないし、何より起業する際には両親が味方につくと強いです。

――こう聞いていくとすべてがうまくきているように感じますが、凹んだことは。

なかったと言えば嘘ですが、ものすごく悔しいということは今となっては忘れてしまっていますね。

――最後に今後の展開をどう考えているか教えてください。

最初の1、2年は個人で活動をしてきましたが、近頃、企業やNPOなどパパ料理を支援してくれる仲間も増え必要なときに必要なチームを作って活動しています。

これはデジハリ時代に学んだスタイルですが、ハリウッドではプロジェクトチームが集まり映画が終わったら解散する。自分も、今後必要なときに必要な組み方をしてパパ料理を広めていきたいですね。

起業を念頭においたビジネスマンライフを送ってきてはいませんでしたが、教育事業に触れたことがとても今の自分に影響を及ぼしていると思います。儲かると思ってはじめた学校はことごとく潰れていて、ミッションがないとやっていけません。今の自分のスタンスも志ありき。そこが同じなんです。

―― 今日はありがとうございました。

 

<柴田からの提言>

「独立したい、パパ料理研究家になりたい」と聞いた4年前よりも更に情熱的に語ってもらいました。「思う力」と「伝える力」の話がありましたが、滝村さんは自分のスタイルをしっかり持っている。それが自信となり、「パパ料理研究家」という耳慣れない言葉を聞いても納得感があります。好きをカタチにする基本は自分のスタイルをしっかりもつことですね。

次回は巨大商社のエリート社員から担当していた事業をスピンアウト。上場までさせてしまった社長の「好きをカタチにした」お話を伺います。

(柴田励司=聞き手 高野美穂=構成)