「他人に迷惑をかけざるをえない人」の居場所がない

「他人に迷惑をかけない人であるかぎり、その弱者は助けるべきだ」という呼びかけには素直に賛同する人は多い。しかしながら、これを現代社会に当てはめて考えると、実質的に「弱者は助けない」といっているのとほとんど同義となってしまう。なぜなら、この社会における弱者とはたいてい、複数の厄介ごとや面倒ごとを抱え、関わりを持てばほぼ確実に他人に迷惑をかけざるをえない人であるからだ。

御田寺圭『ただしさに殺されないために』(大和書房)

「ニュース」の中で伝えられた来歴を見るかぎり、加害者の女性には「迷惑な他人」として扱われる要素が散見されてしまう。これでは、たとえ本人が勇気をふり絞って、見知らぬ他者に窮状を訴えようと戸口を叩いても、招かれざる客として追い払われてしまうのが関の山だ。

彼女は、我が子を死なせてしまうという凄惨な結末を迎えてようやく、社会的不公正の被害者として世間の人びとからの認知を得た。だが、そのような結末を迎える前まで、彼女とその娘は社会によって意図的に不可視化された透明人間だった。透明人間になる前は「迷惑な他人」だった。

彼女たちの悲劇は、自由で快適な社会が、明日も明後日も、これからもずっと変わらず、ただしく運用されるために望まれたものだった。

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