優秀な経営幹部+完璧な資料=ひどい会見になる謎

わかりやすい例を出そう。昔、ある大企業の経営幹部の謝罪会見トレーニングをしたことがある。この経営幹部の方は、高橋社長のように長く開発部門を歩まれて、専門知識も豊富。しかも、お話も非常に上手で、ちょっと雑談をしただけでも、「ああ、すごく頭の回転のいい人だな」と感じた。

一方、サポート体制も完璧だった。かなりしっかりとした企業なので、広報チームも経験豊富な方が多く、現実的なシナリオを組み立て、この経営幹部に何を言ってもらうのかというメッセージも明確だった。想定質問も万全の用意で、あらゆる方向からの質問も答えるようにできていた。

優秀な経営幹部、完璧な手持ち資料、しかしいざ模擬の記者会見を始めてみると、ひどい内容だった。社長は手元のペーパーを棒読みで、専門的な話もつっかえながら説明して、キレ者感ゼロだ。しかも、記者役から厳しい質問を投げかけられると、見るからに動揺して、手元の資料を目で追いながら、自信なさげに語るなど、「現場をよく把握できていないダメ社長」の典型的な姿に見えた。

そこで筆者は、「もう一回、模擬記者会見をやるので今度はペーパー通りに正確に言うのではなく、ご自分の言葉で、好きなように答えてみてください」とお願いした。

自分の言葉でプレゼンしたほうが良い結果が出る

すると、今度は人が変わったように、会社のメッセージから専門的な話まで、非常にわかりやすく説明して、記者役からの厳しい質問に対して、動揺をすることなく、相手の目をみながら落ち着いて、言葉を選んでしっかりと打ち返したのだ。同一人物とは思えないほど劇的に変化したのだ。

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これは皆さんも自分に置き換えていただければわかりやすいかもしれない。例えば、営業マンの方が得意先にプレゼンする時、直前に上司がつくった資料とセリフを渡されて、「この通りにやれよ」と言われたらどうか。自分の言葉で、自分の表現で、自分のアピールポイントで、プレゼンをしたほうがよっぽどやりやすいし、そちらのほうが「良い結果」が出ないだろうか。

ここまで言えば、筆者が何を言わんとしているのかお分かりだろう。日本企業の危機発生時の社長会見が「ダメ」なのは、登壇する社長個人が無能だからではなく、「社長の言うことをこちらで決めて、あまり余計なことをしゃべらせない」という過剰な「守り」の姿勢によって、社長の本来持つ知識やコミュニケーション力を発揮させず、不自然な立ち振る舞いをさせているからなのだ。