KDDI社長会見が成功した最大のポイント
あれだけの大規模通信障害を受けた社長会見なのだから、「社長に失言させない」という意識が働いて、ガチガチに作り込んだメッセージや回答で、高橋社長に1人でさまざまな説明をさせるという対応をしないはずだが、現実は高橋社長がかなり自由に、そして自分の言葉で対応をしていた印象だ。
なぜこんなことができたのかというと、「今回のような会見は前例がなく初めてだった」ということが大きい。
メディアでほとんど語られることはないが、筆者は実はこれこそがKDDIの社長会見が成功した最大のポイントだと思っている。
高橋社長も自身も会見で明かしたが、実はこれまで通信業界ではこのような通信障害が起きた場合でも、すぐに会見をしなかった。会社としては復旧を第一に考えて、ある程度その目処がついて原因も判明したところで、会見をするというのが「通信業界における危機管理のセオリー」だった。
しかし、今回は総務省から尻を叩かれて、かなりイレギュラー的に会見を開くこととなった。KDDIの危機管理担当者は困惑したはずだ。先ほども触れたが、基本的に危機管理は「前例主義」で、過去に似たような危機に直面した時の自社のケースや、他社の対応などを参考にして、このようにやっておけばダメージを最低限に抑えられるだろうと考えていくのが「定石」だ。しかし、今回は「前例」がない。つまり、社長が何をどこまで言うべきか、言わないべきか、という作戦を立てる際に参考とすべき、「ベンチマーク」がないのだ。
「危機発生時の理想のトップ」の前例がつくられた
となれば、あとはもう出たとこ勝負しかない。高橋社長と幹部など登壇者に現時点での情報を渡して、あとは「真摯に説明して、真摯に質問に答える」ということを期待するしかないのだ。
ただ、これがよかった。ガチガチにつくり込んだシナリオも、前例を踏襲する当たり障りのない回答分もつくれなかった。すべてが「初めての経験」ということで、高橋社長たちは自然体で会見にのぞむことができ、ヘンに芝居ががった対応をすることなく、いつもの自分たちの力を発揮することができたのだ。
つまり、実はKDDI“賞賛”会見は、「さまざまな幸運が重なった結果」でもあるのだ。
その逆に不幸なのが競合他社の社長だ。「前例主義」の企業危機管理の世界では、高橋社長が賞賛されたことを受けて、「あれが危機発生時の理想のトップの姿です」なんてことを言い出している人が既に現れている。
それはつまり、ドコモやソフトバンクがもし同様の大規模通信障害を起こした時、それらの会社のトップたちは、高橋社長と同じくらいのタイミングで公の場に現れて、同じくらいのうまく1人で説明できなければ、「(KDDIに比べて)対応が悪すぎる」と批判されて、最悪、「無能」のレッテルを貼られてしまう恐れもある。
「こんな優秀な人に辞任してほしくない」「こういう人がいなくなったら通信業界にとって大損失だ」とネット上で褒め讃えられる高橋社長だが、同業他社の中には「余計なことしやがって」と憎々しげに思っている人もいるかもしれない。