「叩き上げパターン」が多い日本企業の社長

結論から言ってしまうと、実はそこまで大きな差はない。筆者は報道対策アドバイザーとして、さまざまな企業の危機管理を手伝ってきた過程で、いろいろな業種の社長に会ってきたがその多くは、高橋社長のように優秀な人たちだった。

この「優秀な社長」というのは、高橋社長のような理系出身で開発部門という技術系に強い人ばかりではない。いわゆる、日本の大企業の「ゼネラリスト育成」的なキャリアを積んできた、経営企画や購買部など管理部門から社長になった方も含まれる。

ご存じのように、日本は欧米のように「経営のプロ」がいきなりやってきて、社長に就任のようなパターンは少なく、プロパーから社長になるという「叩き上げパターン」が多い。みなそれぞれの組織で厳しい競争を勝ち抜いた人なので、自分たちの会社の現場や技術に対する知識も深く、コミュニケーションのスキルもかなりしっかりとしたものがある。自分の会社のことなのに、そんなことしか言えないのかと呆気にとられたり、何を言っているのかよくわからない、という社長は2割に満たなかった。

あくまで肌感覚ではあるが、日本のそれなりの大企業の社長の大半は、高橋社長のような対応ができるくらいのスキルは持ち合わせている印象だ。

「守り」に徹した姿勢がダメ社長会見を生む

では、なぜ「優秀な社長」が多いのに、アウトプットがあんな「炎上会見」ばかりになってしまうのかというと、実は社長個人のスキルよりも、その組織が「企業危機管理」というものに対して根本的な誤解をしていることが大きい。

それは一言で言えば、「危機発生時は社長に余計なことをしゃべらせないのが正解」という誤解だ。

企業の危機管理は「会社を守る=トップを守る」という考えに基づいているので、社長会見で最も避けるのは社長がおかしな失言をして、メディアや世間からボロカスに叩かれないということが最大の目標になる。そこで、筆者のような外部のコンサルタントに相談をしたりして、自社の過去の会見、さらには他社や他業種の危機管理ケースを参考にして、社長が批判されないような「安全な回答」を作り込む。

会見にのぞむ社長には、この「安全な回答」通りに対応をしてください、とお願いをして事前に練習もする。ここから逸脱したことを言わなければ、失言はないということなので、とりあえず会見は成功というわけだ。

このような流れが、危機発生時におこなう社長会見の一般的な対応なのが、実はこのように「守り」に過剰に徹した姿勢が、「ダメ社長会見」の遠因になってしまうという、なんとも皮肉な現実があるのだ。