「ゴキブリは1匹いたら100匹いる」は本当か

つぎに、「ゴキブリは1匹いたら100匹いる」です。

苦手な人からすれば、1匹でさえ見たくないのに、その背後にもっとたくさんのゴキブリがいると思ったら背筋が凍ることでしょう。家に出たとなれば、即座に引っ越したくなるかもしれません。この都市伝説については「そうとも限らない」というのが答えです。

たしかに屋内で繁殖している場合は、100匹以上いる可能性もあります。頻繁に見る場合は、駆除業者に連絡するのがいいでしょう。しかし、ゴキブリは居心地の良い場所やエサを求めてさまざまな場所を動き回るので、たまたま1匹だけ屋内に侵入することも少なくありません。

最後に、「ゴキブリは人めがけて飛ぶ」について。ゴキブリは、種によっては飛翔能力を持ちます(翅がない種、翅が短すぎて飛べない種もいます。またチャバネゴキブリのように、翅があっても飛べない種もいます)。おなじみのクロゴキブリも、成虫になると立派な翅を持ちます。そして、湿度や温度などの条件が良く、活発な状態であれば飛翔します。

「飛ぶのが下手で、滑空しかできない」と言われることもありますが、上に向かって飛ぶことや、方向転換しながら飛ぶことも可能です。

では、人に向かって飛ぶのか? 事実はゴキブリに聞かないとわかりません。

ただ、ゴキブリはハチや毛虫のような毒針を持っておらず、敵を前にしたときは、攻撃するよりも逃げたり防御したり隠れたりしてやりすごしています。わざわざ危険を冒して人間を狙うというのは考えづらいでしょう。

向かってきたとすれば、人を「ちょうどいい高さの着地点」と見なしてのことだと思われます。襲いかかってきているわけではないのです。

「ゴキブリはかわいい」

私は昆虫館でさまざまな生き物の飼育をしてきましたが、飼育を通して生き物と関わっていると、どんな種にもかわいらしさを感じます。

もちろん、ゴキブリも例外ではありません。こういうことを言うと気味悪がられてしまうのですが、はっきりと言いましょう。「ゴキブリはかわいい」のです。

写真提供=イースト・プレス
ゴキブリを飼育する筆者

まず、エサをあげたときにワラワラと集まってくるのはとても魅力的です。飼育において、生き物と関わるタイミングはそこまで多くありません。

ずっと触れ合っていれば生き物が疲れてしまいますし、弱って死んでしまうこともあります。そんな中で、エサやりというのは、私たち飼育者が生き物にアプローチできる貴重なイベントです。エサに良い反応をしてくれると大きなやりがいがあるものですが、ゴキブリはこの点でとても秀でています。

エサを入れるためにフタを開けると、ゴキブリたちは慌てふためき、こぞって隠れてしまいます。しかし、エサを設置して少し様子を見ると、隠れ家から触角を出して揺らしながら、だんだんと外へ出てきます。そして、今度は我先にとエサを食べ始めるのです。

「おやおや、ゆっくり食べなさい」と、お腹が減った子どもたちにご飯をごちそうする田舎のおじさんになった気分になります。こちらの行動に対して大きな反応をしてくれるのはとてもおもしろく、かわいらしく見えます。