「再公営化」の動きは水だけに限らない
そのリサーチによれば、世界各国で二三五の水道事業が民営から再び公営に転じていた。この再公営化の恩恵を受けた人口は一億人を優に超える。
水道の再公営化の勢いはその後もとまらず、二年後の二〇一七年に行った調査では世界三三カ国で二六七の再公営化事例が確認された。わずか二年のうちに、三二の自治体で再公営化が進んだわけだ。
そして二〇一七年のリサーチでは、水道以外の重要な公共サービスの再公営化事例も調査を行った。電力、地域交通、ゴミ収集、教育、健康・福祉サービス、自治体サービスを加えた七分野である。結果は驚くべきものだった。水道とあわせた七つの公共サービス分野において、四五カ国から八三五もの事例が集まった。自治体数で言えば、一六〇〇以上の市町村が再公営化を果たしたことがわかったのだ。
さらに二年後の二〇一九年の調査ではインターネットブロードバンドをふくむ通信サービスを調査の対象に加えた。結果、再公営化および公営化の合計数は一四〇八件となった。水道事業の再公営化の事例だけでも三一一事例にのぼった(※)。
※筆者註:公共サービスの再公営化については、著者が所属したトランスナショナル研究所と英グラスゴー大学の共同研究によるデータベースが詳しい。再公営を果たした事業の件数はさらに増え、69カ国で1583件にのぼる(2022年7月)。
質の低さ、運営の不透明さが問題に…
この事実は水道事業だけでなく、公共サービス全般にわたって脱民営化・再公営化・公営化の数が年々増加していることを示している。
ではなぜ、一度民営化された公共サービスが、多くの国々で続々と再び公営化されているのか。答えはシンプルだ。民営化された後の事業の質の低下がひどく、運営がずさんかつ不透明だからだ。
PPP/PFIモデルは自治体の支出や債務の削減を目的に、公共サービスの効率化を掲げて導入されることが多い。「公的セクターは効率が悪いから、公共サービスを民間企業に任せて経費を節減すればよい」という神話が信じられている。日本でも世界でもこのような「新自由主義の神話」が幅をきかせてきた。
ところが、実際に公共サービスを民営化してみると、次々と不都合なことがもちあがったのである。