「ほとんどの国では民間が運営」は間違い
麻生副総理の発言には数多くの誤りがふくまれているが、そのなかでも「水道というものは、世界中ほとんどの国ではプライベートの会社が水道を運営して」という発言は、とんでもない間違いだ。
民間の事業者が水道の供給に占める割合は、この会見のあった前年の二〇一二年の時点で全世界の一二%にすぎなかった。また、国単位でみたときに、民間水道が五〇%を超える国はイギリス、フランス、チェコ、チリ、アルメニアのみであった。
私は手元の資料を確かめながら、怒りとともに、この事実誤認について日本の友人に返信をしたのを覚えている。
では、なぜそのような嘘をつき(そうでなければ事実を誤認したままで)、日本の閣僚は、ワシントンのCSISで水道民営化構想をぶちあげたのだろうか。
かえって市民の金銭的負担が増えるだけ
ひとつには、CSISが新自由主義的改革を強力に推し進めるフロントランナーであるからだ。
一九八〇年代以降、公的債務のふくらんだイギリスとアメリカでは新自由主義の嵐が吹き荒れ、「官から民へ」のかけ声のもと、公共サービスの民営化が続いた。各国政府も、世界銀行などの国際機関も、そしてEU(欧州連合)も、こんなふうに考えるようになった。
公的セクターは非効率的で、運営コストが高い。民間でできることは民間に任せ、企業が得意とする効率化で経費を節減すれば、公的支出や新たな債務を抑えられる―─。
そして、彼らは、非営利が原則の公共サービス部門の運営に企業経営的な手法をもちこんだ。そのとき、キー・プレイヤーになるのが、民間の大企業だ。
しかし、公共サービスを民営化すればコスト削減になるというのは、間違いだ。民営化すれば、企業が利益をあげ続ける必要があるため、かえって市民の金銭的負担が増えるのだ。
また、民営化宣言がCSISで行われたのは、それ以上に問題だった。ことは単なる公共水道の民営化宣言などではない。
公共水道を外資系水メジャー(上下水道事業を行う国際的大企業)に売り渡すという、日本政府から世界に向けた対外公約に等しい。麻生副総理の発言を聞いて、新自由主義陣営やグローバル資本は小躍りして喜んだはずなのだ。