「水道料金4倍を宣告」住民に降りかかった悲劇
たとえば水道事業では、民営化で料金が安くなるという水メジャーのセールストークに反して、逆に料金の高騰するケースが各国で続出している。
なかには企業側が四倍もの水道料金を通告してきた事例もある。ポルトガルの人口五万人のパソス・デ・フェレイラ市だ。
二〇〇〇年に市は民営化の契約を結んだ。前市長は、実際よりも多い水需要計画にもとづいて企業に収益を約束していたが、人口が減少する町で水需要が拡大するはずもなく、企業側は予想した収益が得られないとわかると、水道料金を四倍に値上げした。そのうえ、企業側は、約束された収益を補てんするため市に一億ユーロ(約一二〇億円※)の補償請求書まで送りつけてきた。
小さな町が企業を誘致するために現実にそぐわない楽観的な予測を立て、企業はそれを知りながら料金収入でまかなえなかった分の収益を自治体に請求する。企業にとってはなんのリスクもなく、結局このようなずさんな契約のツケを払うのは住民である。
※編集部註:レートは当時のものです(2020年3月)。
水道ビジネスほどおいしい事業はない
極端な人口減のない町でも、民営化による料金高騰は後を絶たない。
契約期間が数十年と長期にわたるだけに、水サービス企業が「運営権」を取得する際に自治体に支払う対価は巨額となる。しかし、その代金を水サービス企業が自社の資金から支払うわけではない。多くの場合、「運営権」を担保にして市場や金融機関から必要な資金を調達して、自治体への支払いとする。その債務の利息は当然、自治体や公的機関が低利の公的資金を借り入れた場合より高くつく。
加えて民間企業の場合、当然のことながら、社員の給与以外にも役員への報酬、株主への配当、さらには複雑なコンセッション契約を処理するための高額な法務費用などもコストとして発生する。親会社がある場合はその分の利潤も確保しないといけない。
こうした運営コストは公営の水道事業では不要なものだが、民営化すれば、多くの場合、住民の支払う水道料金に反映されてしまうのだ。
その一方で、水道事業は自然独占(消費者が水道管を選ぶことはできないために自然と地域一社独占になること)なので、水サービス企業は一度運営権を手中にすれば、その後は誰とも競争することなく、安定した利益を貪り続けることができる。グローバル資本にとって、水道事業ほどおいしいビジネスはない。そのため、今後も世界中で多くの人々が水メジャーによる水道サービス民営化の脅威にさらされることになるだろう。