疑惑は掘り下げられることなく法案は可決された

しかし、この女性職員はもともとPPPの専門家である。「PPP推進室」での議論や検討内容がこの職員を通じて、ヴェオリア社に筒抜けになっていたとしたらどうだろう。それで水メジャーの日本進出に有利な内容が改正水道法に盛り込まれるようなことがあれば、それは悪質な利益相反である。

水道法改正の背景にはコンセッション方式によって水道事業運営を受託し、巨額の利益をあげたい水メジャーが蠢いているのではないか──。福島議員ならずとも、まともな思考をもつ人ならそう疑念を深めるのは当然のことだろう。

国会の審議中には改正水道法の骨格づくりをしてきた福田隆之官房長官補佐官が辞任するという事件もあった。視察先のフランスでヴェオリア社と、同じく世界三大水メジャーのひとつであるスエズ社から接待を受けていたのではないかと指摘する怪文書が出回った直後のことだ。

しかしながら、こうした利益相反の事実は掘り下げられることなく、この年の末、改正水道法は審議不十分なまま可決された。

この改正により、日本の上水道の民営化が自治体の判断で可能になるばかりか、政府が民営化を後押しする土壌が整った。

コンセッション方式による民営化が欧州では大きな問題を引き起こしているという事実を、日本の市民が熟知し、それぞれの町で民営化を阻止しなくては大変なことになってしまう。水と民主主義を専門にしてきた自分の役割の重さを感じながら、法案可決のニュースをやはりアムステルダムで聞いたのだった。

「コンセッション方式」とは何なのか

このコンセッション方式について少し踏み込んで解説をしておこう。コンセッション方式が日本の国内法に登場したのは改正水道法がはじめてではない。東日本大震災が発生した二〇一一年にPFI法が改正され、「公共施設等運営権方式」(コンセッション方式)がはじめて明記された。

この改正によって、議会の議決で公共施設等の「運営権」を民間企業に売却し、その維持管理や運営を包括的にさせることが可能となった。

ここで誤解しがちなのは、「運営権」ということばだ。この「運営権」は単なる契約上の地位ではない。法によって設定された物権(財産権)を指す。

そのため、企業は「運営権」を別の企業に売りわたすことができるのだ。また、担保権としても機能するため、この「運営権」を担保として金融機関に差し出せば、融資を受けることもできる。