国外を見れば先行事例が全く無いわけではない。中国のEVメーカー「NIO」が交換式バッテリーサービスを中国本土で展開している。しかし、単一企業が国からの支援無しに事業採算が取れるかどうかは不明である。

世界に先駆けて、日本の二輪業界で始まった変化

現状のEV領域では交換式バッテリーには課題が多く、実現難易度は相当に高い。しかし、ポジティブなニュースもある。この交換式バッテリーのビジネスモデルが「二輪電動バイク」の領域で進みつつある。しかも、日本で。

2022年3月末、国内の二輪メーカー大手4社(ホンダ、スズキ、ヤマハ発動機、カワサキモータース)と石油元売り大手のENEOSが新会社「Gachaco(ガチャコ)」を設立した。

同社は、電動バイク向けの交換式バッテリーシェアリングサービスなどを手掛ける。外出先で充電が切れてしまった場合でも充電済みのバッテリーと交換できる拠点を、東京や大都市圏などにあるエネオスのガソリンスタンド内につくる計画だ。

二輪であれば、搭載する蓄電池の重量を抑えることができ、ユーザー自身が手動で取り外すことが可能だ。バッテリーステーションの設備投資のコストも小さくて済む。そして一番のポイントは、本来はライバル同士である国内二輪メーカー4社が手を組み、交換式バッテリーの規格を共通化する点だ。

電動バイクの普及には、長時間充電の面倒さや、外出先での充電切れへの懸念が課題として挙げられていたが、この問題をバッテリーの循環利用の仕組みで解決を目指している。バッテリーの共通規格化により、電動バイク市場を広げる準備を整えたことは大きい。

バッテリーの「共通規格化」が国産EVを変える

新会社は電動バイクだけでなく、商業施設や住宅などのバッテリー分野でも共通規格化を進め、バッテリーの循環利用の促進を狙う。これは国産EVの未来を考えるうえで非常に重要な示唆を与えてくれていると、私は考えている。

なぜなら、このような二輪での交換式バッテリーのモデルを四輪(EV)に転用することができれば、まだまだ国内プレーヤーにも勝機はあるはずだからだ。

これまで述べたように、全てのEVには共通する「3つの壁」がある。交換式バッテリーは、その問題点をブレイクスルーさせるビジネスモデルだと言える。二輪ではあるが、日本からこうした動きが起きることは評価できる。

先に述べたように、現在、EV市場を牽引する多くのヨーロッパや中国の自動車メーカーも、普及にあたっての3つの壁を乗り越えられず、問題を棚上げしている。走行距離をなんとか伸ばそうと、蓄電池の開発競争にいそしんでいる。だが結局のところ、どれだけEVを市場に投下したとても真にユーザーメリットが無ければ長期的に顧客を維持することはできない。