市民が運転手を支持した理由
【堤】カナダは主要マスコミも政権寄りなので、こうした事情は余計見えにくいかもしれませんね。この間のカナダやEUのデモを追いながら、ワクチンそのものの是非より、国家権力と国民主権の関係や、憲法の位置づけ、民主主義といった、もっと本質的なものが全面に出ていたことに、とても考えさせられました。
中でも私が一番驚いたのは、トラック運転手たちを応援する一般市民の多さです。マイナス20度の気温の中で毛布や食べ物をせっせと差し入れ、教会が寝床を提供し、クラウドファンディングは、5日間で10億円集めるほどの勢いでした。
トルドー首相は警察を出動して彼らの行く手を阻んで妨害したもののうまくいかず、最終的には警察権限の拡大と、抗議者たちの銀行口座を凍結する手段に出たのです。
【斎藤】かなり強気に出ましたね。カナダでは「緊急事態法」の発出で、それが可能だったということですか。
【堤】ええ、平時には不可能なことを、「緊急事態法」を使って強引に。でもこれは最悪のシナリオでした。アルバータという州の政府が連邦裁判所に異議を申し立て、上院では反対の声が多数上がり、憲法草案者をはじめ、国内外で首相バッシングの嵐が吹き荒れることになりました。
最大の誤算だったのは、銀行の取りつけ騒ぎが起きたことでしょう。まあ考えたら当然ですよね。「この国は政府の方針に異を唱えたら、個人資産を凍結するような国なんだ」というのを、首相自ら国内外に証明してしまったのですから。
民主主義が正常に機能しない国では、自分の資産は自分で守らねばなりません。多くの一般市民が銀行に殺到し、カオス状態になりました。結局、首相は緊急事態宣言を取り消し、「コンボイ勝利」の言葉が拡散されたのです。
【斎藤】運転手たちの勝利ですね。
GAFAMは草の根運動に情報統制
【堤】ええ。首相はデジタル化に前のめりなので、口座凍結された人達は今後も不穏分子として監視されるでしょうが、この事件の大きなポイントは、まだまだ草の根運動で、国を動かせるという希望を世界に示したことです。
実はこの後、アメリカでもワシントンを目指してトラック隊が走り出し、EUでも複数の国でコンボイが始まっています。GAFAMのようなプラットフォーマーが巨大な支配力を持つ時代でも、民衆が連帯し「コモンズ」や「自由」を手に入れることは不可能ではありません。いま広がっているのは民衆の側の、「選択肢を信じる力」なのです。