しかし、これがカルチャーの面白さでもあるのですが、結果的にそうした監督の意向とは裏腹に、この映画はアメリカの資本主義を称揚するものとして人々に受け入れられたのです。

映画『ウォール街』で描かれた強欲への警鐘

主人公のバド・フォックス(チャーリー・シーン)は若き証券マンで、業界で一旗揚げようという野望を抱いています。バドは大物投資家であるゴードン・ゲッコー(マイケル・ダグラス)にアプローチしようと営業をかけて、ついに面会の機会を得ます。

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映画『ウォール街』より。

ゲッコーはいわゆる悪しき資本主義者であり、仕手戦やインサイダー取引など手段を択ばず利益を得ようとする投資家です。彼はバドに「自分の知らない情報を持ってきてみろ」と言い、バドはブルースター・エアラインという航空会社のインサイダー情報を伝えます。

実はそれは、バドの父親がこのブルースターの整備士であり熱心な組合員であることによって知ることのできたものでした。バドはゲッコーと組んで破綻寸前のブルースターを救おうとしますが、逆にゲッコーはそれを利用して会社を清算して利益を得ようとします。

このように、ゲッコーは明らかに資本主義の寄生虫であり、自らの欲望のままに利益を貪る人物です。忙しすぎてランチを取る暇もなく、四六時中働きながら──彼は「ランチなんて弱虫が食うものだ」「マネーは眠らない(Money never sleeps.)」と言っています──健康管理は自分で血圧を測り、自分しか信じない人物として描かれます。株を買い占めて会社を乗っ取り、バラバラに売り払うことで利益を得ており、その結果、職を失い路頭に迷う人が大勢出たとしても少しも気にしません。

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人々は「強欲は善である」ことを受け入れた

しかし、同時に彼は魅力的なのです。彼がテルダーペーパーという会社の株主総会で行なう演説は、80年代の映画で最も印象的なシーンの一つです。

彼は言います。「強欲は善である(Greed is good.)。欲望は正しいものであり、役に立つ。生命、お金、愛、知識への欲……どんな形であれ欲望は成長の糧となってきた。欲望こそが、上手くいっていない会社(テルダーペーパー社)を、そしてもう一つの危機的な〈USAという会社〉を救うのだ」と。

ゲッコーのブルースター売却の目論見を知ったバドは、ゲッコーのライバルである投資家ワイルドマンと組んで、ブルースターの株を取り戻すべく仕手戦を仕掛けます。ゲッコーに勝つことのできたバドでしたが、結局インサイダー取引で逮捕されてしまいます。ゲッコーもまた、バドが警察に協力したことで捕まるであろうことが示唆されます。

ラストシーンでバドの父(実際にチャーリー・シーンの父親であるマーティン・シーンが演じている)が、彼に言います。「自分自身の富のために物事を破壊するのはやめよう。リアルなものを作って人のために働く価値観を持て」と。これはオリバー・ストーンからのメッセージであったでしょう。