なぜアメリカは世界一の経済大国になったのか。そのヒントは日本がバブル経済だった1980年代にある。ボストン大学のブルース・シュルマン教授と作家カート・アンダーセン氏のインタビューを収録した『世界サブカルチャー史 欲望の系譜 アメリカ70-90s 「超大国」の憂鬱』(祥伝社)から、一部を抜粋してお届けする――。(第1回)
ウォール街で新聞を読むビジネスマン
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強欲なアメリカ資本主義の出発点

レーガノミクスによって好景気を迎えたアメリカだが、一方で減税と軍事費の増大による財政赤字と、高金利政策がもたらしたドル高による貿易赤字という「双子の赤字」を抱えることになる。折しも日本が自動車や半導体といった基幹産業で力をつけてアメリカへの輸出を伸ばしたことにより、日米貿易摩擦が巻き起こった。

そうした中で、80年代のアメリカ経済においては、相対的に存在感を失った製造業よりも、金融自由化によって力をつけた銀行や証券など金融業が活発になっていく。高級なスーツに身を包み、一晩にして夢のような金額を稼ぎ出す投資銀行家の姿に若者たちは憧れ、名門大学に入学してウォール街で働くことを目指すようになる。

80年代後半の日本もバブル経済を謳歌おうかしたが、長くは続かなかった。アメリカもまた80年代半ばのS&L(貯蓄貸付組合)破綻、1987年のブラックマンデーやその後の2008年のリーマン・ショックなどの危機を繰り返し迎えることになる。実体のない「マネー」を善とする新自由主義的な価値観に魅入られた人々の行く末に、今の私たちはどこか醒めた思いを抱く向きもあるが、果たして当時の空気は?

資本主義と共産主義の争い…冷戦時代のもう一つの意味

「強欲は善である」という言葉を受け入れたアメリカ人──シュルマン
ブルース・シュルマン
ブルース・シュルマン(写真提供=NHK)

冷戦という視点からは、80年代は資本主義と共産主義の争いの時代に見えます。しかし、現代から振り返れば、実はそれは一面的であり、本質的には新自由主義経済と旧来の社会的市場経済というイデオロギー間の対立の時代だったのかもしれません。

ご存じの通り、結果としてアメリカは新自由主義的な市場経済と物質主義を受け入れ、賞賛するようになります。それをよく表わした映画が『ウォール街』と『卒業白書』でした。

オリバー・ストーン監督の思想を知っている人なら、あるいはそうでなくても脚本を読めばすぐに分かりますが、『ウォール街』という作品は、自由な資本主義経済の台頭、市場原理主義の暴走への明確な批判でした。強欲な野望と自己中心的な考え方に囚われた人物が、結果的に家族やコミュニティを破壊してしまうことになるという、よくある道徳物語の一つだと言えます。