素人が読んでも、だいぶ苦し紛れのこじつけ感のある論法な気がするのだが、英語と日本語の解釈の違いというのはたしかにあったのかもしれない。
そもそも高等弁務官が出す「布令」は、英語という言語で発想され、英文で書かれているものだ。それを沖縄人が理解できるように誰かが「翻訳」し、日本語の表記に変換されてから発表されるのだ。
当然、この物品税に関する「布令十七号」に限らず、さまざまな布令布告で「誤解」や「解釈の相違」が起きていたに違いない。
「サンマから税金くすね取るなんて、絶対に許さんよ!」
ウシおばぁに、勇気をもって訴えられた政府側は、「コロン」まで持ち出して苦し紛れの言いわけ。それでも、後には引かない気性の激しいウシおばぁのこと、当然「コロン」なんかにひるむことはなかっただろう。ひるむどころか逆にこんな風にまくし立てたかもしれない。
「アタシは、ィエイゴ(英語=編集部注)は分からんよ! 学がないからね。ただね、学がないアタシにだって分かっているのは、布令に書かれてもいないサンマに税金かけるのはおかしい! ってことさ。貧乏人が楽しみにしてるサンマから税金くすね取るなんて、絶対に許さんよ!」
そして、ウシおばぁの訴えは認められた。サンマ裁判、玉城ウシ勝訴を新聞はこう伝えた。
【中央巡裁 サンマ課税に判決 政府は還付すべき】
サンマ、サバなど大衆魚に対する物品税の還付訴訟最終公判が、十五日午前十時から中央巡回裁判所で開かれた。これは政府が大衆輸入鮮魚に対して課税、徴収しているのを不当として、さる八月、那覇市牧志町一丁目七九五の一、玉城ウシさんが政府に対し、五九年から納付してきた物品税四万六千九百八十七ドル六十一セントを還付せよというもので、中央巡回屋宜判事は「政府は還付すべし」と判決を言い渡した。
これは審査の結果、現行物品税法の中にサンマ、サバ、マグロなどは見当たらない。また現行物品税法によると生鮮魚介類の課税品目は制限列挙であり、例示品目ではない。さらに租税は法律主義にもとづいて課すべきであり、法文にない品目の課税は不当であるとなっている。(中略)なお、税関の調べによると、玉城さんから徴収した物品税を含めて、サンマ、サバなどの課税額は約五十万ドルに達するという。
玉城ウシとラッパ下里のコンビは、みごとに勝訴した。