布令に記載されている魚種は「あくまで例示だ」

サンマへの課税が不当だと訴える原告、玉城ウシと下里恵良サイドは、布令に記された課税対象の十九品目が「限定」なのだと主張し、一方の被告、琉球政府とそのバックにいたキャラウェイ高等弁務官側は、掲げられている魚介類の品目はあくまで「例示」だと言い張っていたのだ。布令に書き記された課税対象品目は「限定」か「例示」か。

下里恵良弁護士
下里恵良弁護士(提供=イースト・プレス)

その滑稽な論争がよくわかるエピソードが残されていた。

「サンマ裁判」の最初の手がかりとなった、日本関税協会の機関紙『貿易と関税』に掲載されていた島田さんの回顧録「沖縄におけるサンマ裁判」には、論争の内容がこんな風に書かれている。

「法務局法制課においては、例示規定をつらぬくのに非常に苦慮し、色々調べた結果、英和辞典のコロン『:』の説明の中に『例を示す前につかわれる』との文言を発見し、これを例示規定の根拠にしたが、藁をもつかむ思いであったろう。」

え? コロン?

琉球政府側は布令に課税対象として揚げられている生鮮魚介類一九品目が、あくまで「例示」であったという根拠に、英文中にあった「:」コロンを持ち出してきたという。どういうことだろうか。

「コロン」の件について琉球政府側の弁護人は、巡回裁判所では以下のような論陣を張って、あくまで「例示」であることを証明しようと試みていたようだ。

万年筆
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翻訳の過程で解釈の違いが生まれてもおかしくないが…

「布令は英文を本体とすべきをもって、その第一条についてこれをみるに、『次に掲げる物品で別表に定めるものにはこの立法により物品税を課する。』の『別表に定める』は、英文ではmay be provided for in the attached table. とあって、正しくは『別表に定めることができるもの』であり、言葉のもつニュアンスとしては、『例えば別表で定めてあるようなもの』という意味合に読むべきであって別表に掲げてある物品のみに限る趣旨のものではない。

更に課税物品表第十三号は、本文とうなぎ、ます等掲名物品をコロン(:)で結んである。コロンは或る語句の後に説明、例示、定義、換言、要約、引用、同格又はリストが続く場合に用いられる符合であり、本条項の場合は例示を示すものである。つまり、うなぎ、ます、かき、はまぐり等特殊の物品を例示して生鮮魚介類を説明したと解すべきである。」

と、もう藁どころか「コロン」にもすがる思い。