「そうだね。ただ、皮肉なことも起こっているんだ。ヒトは一見、『うんち』となるべく関係がないように生活しているけれど、じつは『うんち』を排泄することに関して、野生動物には見られない社会問題が引き起こされているんだよ」

「社会問題?」

増田隆一『うんち学入門』(ブルーバックス)

「そうなんだ。その一つとして、子どもが学校のトイレで『うんち』をしづらいということが挙げられる。学校のトイレで排便したことが校内で周囲に知れると、子どもの社会ではいじめの対象になることがあるようなんだ。また、公衆トイレなどでは、排便時の音が他者に聞こえないよう、音楽や水流音を流していることもある。さらには、『うんち』のにおいを消す目的で、いろいろな消臭剤が販売されていたりするんだ。これらはどれも、ヒト特有の『うんちを遠ざける』行動といっていいだろう」

うんち君の表情が曇り、今にも泣きだしそうな雰囲気です。

「『うんち』をすることは生き物として当然のことなのに、どうしてそれをいじめの対象にするんだろう? 僕には全然、理解できないよ。『うんちがどのようにしてできてくるか』を知りさえすれば、においあってこその『うんち』の重要性もわかるはずなのに……」

「うんち」を遠ざける必要はない

「まったくそのとおりだね、うんち君。でも、さらに別の問題もあるんだ。成人でも、職場等の人間関係によるストレスに起因する自律神経系の不調によって消化管のはたらきに支障を来し、ストレス性の下痢や便秘になることが知られているんだ。野生動物の社会では、まず見られない現象だ」

「人間社会では『うんち』が積極的に利用されることはなくなり、他者に向けたコミュニケーション情報として機能することがなくなったのはよく理解できる。でも、『うんち』からの情報を消し去ったり、精神的に『うんち』を排泄しづらい環境が生じているなんて、どう考えても行き過ぎだ……。ヒトは、『うんち』の大切さをもっと知る必要がありますね」

うんち君は、人間社会における「うんち」の扱いやとらえられ方を知って、考え込んでしまいました。しかし、さらに広い視野から「うんち」の役割を考えていくことで、問題解決の糸口が見つかるかもしれません。

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