勝ちパターンを生んだ「蔵元の隠し酒」
瓶の上のほうからは、赤い台紙に白抜きで「番外品」と書いた下げ札をかけました。いかにもさらに秘蔵感、限定感を出そうという演出です。「なんだか正規ルートでは手に入らなそうだな」という特別な感じを出したかったんですね。
発売すると、これが売れに売れました。1カ月で3千本が飛ぶように蔵から出ていきました。
隠し酒を中心に、観光客の方にお送りするダイレクトメールからのご注文もどんどん増えていきました。ひとつの勝ちパターンが生まれたと手応えを感じた瞬間でしたね。
蔵元の隠し酒で気分をよくした私たちは、もっと刺激的なネーミングならもっともっと売れるんじゃないかということで、今度は「非売品の酒」を発売することになります(笑)。
サンプルやノベルティなどで「非売品」と書いてあるのを手にすると、ちょっと得した気分になりますよね。そういうのを醸し出すことはできないか、と考えたんです。洋風居酒屋にある「シェフのまかない丼」みたいなものに似ている、不思議な魅力です。
この路線はその後、「杜氏のまかない酒」「社外秘の酒」「非効率の酒」「無修正の酒」などと、どんどん先鋭化していくことになります。「○○の酒」とつけるのがクセになってしまっていましたが、それぞれそれなりの売上がありました。ひとつの勝ちパターンができたら、徹底的にやってみるべきなのかもしれません。
念願の「世界酒蔵ランキング第1位」を獲得
前述したモンドセレクションの受賞をきっかけに、その後もコンテストへの出品は続けており、毎年、日本、アジア、中国、ヨーロッパ、アメリカといった世界の18大会にエントリーをして、毎年50以上の賞を獲得しています。
そのなかでもいちばん影響力を持つのが前述の「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」ですね。2020年には2度目の「グレートバリュー・チャンピオン・サケ」を獲得しています。この賞を2回獲っているのは渡辺酒造店だけです。
それらの集大成が、2020年の「世界酒蔵ランキング第1位」という結果に繋がりました。世界酒蔵ランキングは、日本を含めた世界の代表的なコンテストの受賞率をポイント化して、その総合得点によってランキング化したものです。「世界酒蔵ランキング第1位」はいわば、年間グランドチャンピオンということです。
このコンテストは2019年から始まったもので、その時は2位。2020年に念願の1位を獲得したというわけです。
これには社内も沸き立ちましたね。「世界で第1位の酒蔵なんだから、給料も業界第1位にしてよ、社長!」といった声もありましたが(笑)。そこで2021年は基本給と昇給の見直しをしていずれもベースアップしていますので、現在は社員の報酬としても業界トップクラスのレベルになっているはずです。