都会のデパートに挑戦するも、けんもほろろ

そこでまず考えたのが、都会のデパートで売ってもらえないかということでした。さっそく東京都内のデパートに飛び込んで、片っ端からセールスをかけていきました。

ところが、米どころでもない飛騨の日本酒だから相手はぜんぜんピンときていない様子。飛び込みということもあり、まったく相手にされません。

「飛騨の酒ねえ、聞いたことないなあ」。そんな感じです。当時は飛騨地方の酒として唯一知られていたのが「飛騨自慢鬼ころし」だけでしたから無理もありません。

しかしそもそも飛び込みは無謀だということで、次はちゃんと電話でアポイントメントを取ることにしました。それでもほとんどのデパートは門前払いでしたが、唯一、池袋にある某百貨店がようやく会ってくれるということになりました。

午後2時の待ち合わせだったので、早朝から自慢のお酒を持って酒蔵を出て、在来線と新幹線を乗り継いで向かいました。5時間ほどかかってデパートに着き、小さな部屋に通されて待っていたのですが、約束の時間を10分過ぎても、20分過ぎても担当者は現れません。

どうやら約束を忘れられていたようで、30分ほど過ぎてから「ああ、ごめんごめん」と部屋に入ってきて、私の話を聞いて蓬莱を飲むなり、「この味だとウチじゃあ取り扱えないなあ」とけんもほろろ。

スター銘柄にあって渡辺酒造店に足りないもの

帰りにデパ地下のお酒売り場に置いてある有名な地酒を見てみました。きら星のごとくスター銘柄が並んでいるのを見ながら、「こんちくしょう!」と思わずにはいられませんでした。

「またダメか……」と思いながら新潟のお酒を見ると、雪国をイメージした、デザイナーさんが手がけたような美しいラベルの酒瓶が並んでいました。いまの自分達に足りないものはなんだろうかと考えさせられたり、ラベルのデザインも大事なんだなと思ったり、いろいろな収穫を得て帰ってきた出来事ではありました。

日本の酒
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです

岐阜に帰ってからもデパートで売られていた日本酒のことを何度も思い出していました。そうしている内に、やはり新商品が必要だという思いが固まっていきました。

新商品を作って自分で売るしかない。だったらまず足元から見ていこうということで、私たちの地元である飛騨古川を訪れる観光客にお酒を飲んでもらい、感想を聞こうと思いついたんです。