周辺のノイズを削り、聞きたい音だけを聞ける

さらに、こちらは個人というよりオフィス用ではあるが、吸音パネルを壁に取り付けることで、耳障りな反響音を吸収する「サウンドアブソリューション」といった方法も存在する。

上記の手法はそれなりに費用も準備も必要だが、日々開発が進む中で、話し手の音声からリアルタイムでマスキング音を生成する技術も開発されつつある。適切なマスキングを実施するには、個人の声の周波数に応じたマスキングが必要であり、それらをリアルタイムで行う技術が求められる。

さらに言えば、聞かせる音と聞かせない音を人工知能が自動で判断するサービスも存在する。例えば「Krisp」というノイズ軽減ソフトは、PCのタイピング音や家族の声といった環境音と、話し手の声を区別し、前者だけをカットする技術を有している。

音を自動で判断する技術としては、NTTも2018年、複数の人の声が混ざった状態から、目的とされる人の声だけを抽出して届ける技術「SpeakerBeam」を開発している。実用化には課題もあるとのことだが、不必要な音をカットするノイズキャンセリング機能から、さらに一歩進んだ技術開発も進められている。

このように、スピーチプライバシー技術が進むことで、私たちの労働環境は大きく改善されるだろう。

若者の半数が「不適切な音量で利用」

一方、自宅か職場かに限らず、仕事に集中したい時など、イヤホンやヘッドフォンを利用している読者も多いだろう。しかし、昨今はマスクを耳に装着することが日常化しており、長時間の利用は耳への負担が増すばかりか、難聴のリスクも懸念される。難聴になりにくいイヤホンはあるのだろうか?

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まず、難聴のリスクはスマートフォンの普及によって、その深刻さを増している。2015年のWHOの報告では、中~高所得国のティーンエイジャーとヤングアダルト(12歳から35歳)のほぼ半数が、不適切な音量で携帯音楽プレイヤーを利用しており、世界11億人の若者が難聴のリスクがあるという。

そこで順天堂大学の研究チームは、4種類のイヤホン/ヘッドフォン(耳置き型:earbuds、ヘッドフォン、インサート型=カナル型、ノイズキャンセリング機能付きインサート型)を利用して被験者に音楽を流し、静寂な環境と地下鉄の騒音環境で、聞き心地のよい音量に調整してもらった。