バナナスタンドからは、今では週に80~100ケースの注文がある。松孝では1日に1500から2000ケースのバナナを卸しているので、1週間の合計1万ケースのうち1%程度にすぎない。しかし黒田にはほかの取引先では見えない熱意があり、自分たちのバナナのおいしさを評価してもらっていることが感じられるという。
仲卸業者の願い、黒田の熱意
バナナで一番大事なのは、真っ青なバナナを室に入れて、エチレンガスで熱して黄色くする過程だ。ここで大きく味の違いが出る。むずかしいのはガス抜きのタイミングと抜いた後の温度管理で、早すぎても遅すぎてもいけない。
約1週間バナナの変化を見ながら0.5度刻みで温度を変え、色、味、鮮度と三拍子そろったバナナを市場に出す。吉村は、その手間や味の違いがわかってくれる業者に、バナナを提供したいと考えていた。
消費者は安くておいしいものが欲しい。安くてもおいしくないものは買いたがらないもので、おいしさは絶対の条件だ。日本のバナナ消費量は海外に比べるとまだ伸びる余地があるが、ローコストで手を抜いた商品を作っていては消費者が離れていくだけだという。
「記者をやっていた経験からいわせてもらうと、このマーケットはまだ情報格差が大きいんですよ。生産者が持っているおいしいフルーツの情報をお客さまが知らないことで、失ってるチャンスが大きすぎるんです」
吉村は大学卒業後、共同通信に4年間勤めた経歴がある。自分の言葉に思い出したように、事務所からファイルをとってきた。表紙には「松孝ニュース」と書かれている。
「この会社に入ってから、新聞みたいなものを作り始めたんです。ニュースっていっても、各フルーツの担当者が、入荷予定の時期とか価格とか需要の見通しを伝えるだけですけど、この業界はとにかく、消費者が生産者のことを知らな過ぎなんです。こんな当たり前のことをするだけで、バナナがぐっと身近になるんですよね」
ぶ厚いファイルをめくっていると、バナナの販売を増やそうとがむしゃらに走り回る若い頃の吉村の表情が浮かんでくるようだった。
望み通りのエクアドル産バナナ
安定した供給ラインを確保できたバナナスタンドは、今では各店舗で約半月分の在庫量を維持している。1000リットル以上入る冷凍庫を各店舗に置き、府中と仙川のバックヤードには複数の大型の冷凍庫を備えている。
冷凍庫は、段ボール30箱以上のバナナが入る容量がある。段ボールひと箱に約90本のバナナが入っているので、最大でバナナ3000本を上回る量だ。バナナジュース1杯で1~2本のバナナを使うので、1500~3000杯分になる。