部屋から見えるのどかな景色に「平和とはこれだ」

ニューメキシコ大学に留学した新崎康善さん(1950年留学)は、ミルズ大学に到着した日、割り当てられた個室に入り、荷物を解いている時に窓から見た景色が今でも忘れがたいという。新崎さんの部屋の窓からは、芝生の庭にはスプリンクラー、そしてその脇にお洒落な時計台が見えた。

「朝夕時計のチャイムが鳴り、あたりのしじまの中を心よい音が広がっていった。天も地も、そしてすべての生あるものが、渾然一体となって静かに息づいている風であった」(『エッセイズ ゴールデンゲイト』1987)

新崎さんは、戦争で荒廃した郷里を想い、「平和とはこれだ」と感じたという。

オリエンテーションのプログラムは、平日朝9時から午後4時まで約1カ月半行われた。英語だけでなく、アメリカの歴史や地理に関する授業、大学図書館を利用する重要性、論文の書き方などについて学ぶ授業があった。

水洗トイレの使い方、バスの乗り方、町での買い物の仕方など、アメリカの生活習慣に関する授業も行われた。

さらには、「アメリカン・ウェイ・オブ・ライフ」の一環として、テーブルマナーや恋愛交際のあり方についても教わった。「紳士としての振る舞い方についてもしっかりと教わった」と、東江康治さん(1950年留学)は言う。

初めて使う水洗トイレやシャワーに大苦戦

宮良用英さん(1952年留学)は、アメリカのレディーファーストの文化には衝撃を受けたという。

「これはね、大変な文化だと思った。これが一つの風習であると、教えられるわけです。歩道を歩く時、車が通る道側を男が歩いて、女を守るんだと。そんなの分からないわけですよ。車にはねられた場合は、男が犠牲になって女を助けるものだと、アメリカの友人らは言うんです」

留学出発前のオリエンテーションで、Meet the USAというテキストをもとに主に座学で学び渡米した留学生たち。ミルズ大学のオリエンテーションでは、教わった知識を実践に移し、さらにアメリカでの生活に適応することを期待された。

「米留組」のオリエンテーションでの経験は、「失敗談」もつきものだった。

初めて見た水洗トイレの、溜まっている水で顔を洗ってしまったこと。チャイナタウンからの夜道、校内近くの道路脇で立ち小便をしているのを警備員に見られ大騒ぎになったこと。シャワーを浴びるのにカーテンをバスタブの内側に入れるものだと知らず、シャワーの水で部屋中を水浸しにしてしまったこと。サラダが出てきて、野菜を生で食べさせるなんてウサギと思われていないかと驚き、食べなかったこと。ピッチャーに入っている牛乳を飲みすぎてお腹を壊したこと。

写真=iStock.com/JJ Gouin
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