外国人観光客の受け入れは「最後の切り札」だ

米国は2020年7~9月期以降、2021年10~12月期まで6四半期連続でGDP(国内総生産)がプラス成長を続けてきた。GDPの実額はコロナ直前のピークを、すでに10%以上上回っている。一方の日本は、GDP成長率は一進一退で、実額でもコロナ前の消費税率引き上げ直前である2019年7~9月期の水準にいまだに達していない。そこに輸入物価の上昇が加わり、円安が追い討ちをかけているため、日本経済の先行きには黒雲がかかっている。

2022年4月の企業物価指数は前年同月比10%も上昇して過去最高となった。米国と違い日本は、景気が悪い中での物価上昇、いわゆるスタグフレーションの状況に陥りつつある。

そんな中で、「最後の切り札」ともいえるのが、外国人観光客受け入れによる「インバウンド効果」だ。円安が大きく進んでいることで、外国人観光客にとって日本への旅行は猛烈に「お買い得」になっている。また、ウクライナ戦争で、ヨーロッパへの旅行が敬遠されがちな中で、アジア諸国や米国の観光客にとっては、コロナ後に真っ先に行きたい国になっている。

2019年に日本を訪れた訪日旅行客は3188万人。その訪日外国人が日本国内で消費した金額は推計4兆8113億円にのぼった。それが新型コロナでほぼ消え去ったのである。6月から政府は外国人の入国上限を1万人から2万人に増やすとしているが、規制を大幅に緩和している欧米と比べて、極めて慎重な「再開」になっている。

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「マスク着用」に岸田首相の姿勢が表れている

「今の段階でマスク着用を緩和することは現実的ではない」。5月12日の参院厚生労働委員会の席上、岸田文雄首相はこう語った。すでに欧米ではマスク着用の義務が廃止され、大人数が集まる場所でもマスクをする人がほとんどいなくなっている。日本でも屋外でのマスク着用は不要だという議論が高まっているが、岸田首相は「マスク着用は極めて重要だ」として、緩和は時期尚早だとしたのだ。

結局、この岸田首相の姿勢が、外国人観光客の受け入れ姿勢にも表れているのだ。マスク着用を不要だとした後に感染が拡大したら、政治の責任が問われる、と考えているのだろう。まして今は、今年7月の参院選が控えた大切な時期。政権が批判を浴びるようなことはあってはならない。つまり、リスクは取らないという姿勢を貫いているわけだ。だが、そうなると日本経済はいつまで経っても再生のきっかけを掴むことができなくなる。

感染対策も経済再生もという「二兎を追う」政策はどっちつかずの結果をもたらす。ブレーキをかけたままアクセルを踏むようなものだ。外国人観光客を少しずつ受け入れて、新型コロナの蔓延が進んだ場合、再び国を閉じることになるだろう。世界は行動制限を緩和している中で、日本だけが「慎重姿勢」を取り続けるのだろうか。