部下へは200パーセントの説明を意識する
具体的には、部下と話すときにはゆっくりと丁寧な言い方を常に心がけましょう。一方的な早口でまくしたてたり、プレッシャーを与える高圧的な態度を取ったりすることは、部下の自律神経を乱してチーム全体のパフォーマンスを下げる結果にしかなりません。
何かを説明する際も同じです。あなたの目の前にいるのは、「1を聞いて10を知る」ような逸材ではないはずです。何かを教えることには時間と労力のコストがかかりますが、それこそが組織における上司が果たすべき役割といえるでしょう。
そして、部下に何かを教えるときには、
「200パーセントの説明を尽くして初めて伝わる」
という前提に立ってください。
普段のコミュニケーションでは、「言葉は内容の2割が伝われば十分」という考え方が有効ですが、仕事ではしっかりと正確に伝えなければならない局面が多々あります。
このとき、「説明してもわかってくれないのは部下の理解力が低いから」と考えるのは間違いです。「相手が理解しない」のではなく、「自分の説明が不十分だ」と考え直し、言葉を尽くして200パーセントの丁寧な説明を心がけましょう。
仕事における自律神経のバランスの取り方については、本書の第5章でも詳しく解説しています。
「誰も信用しない」スタンスは優しさと覚悟の証
期待と近い言葉に「信用(信頼)」があります。信用を得ること、信頼して任せることは、仕事を進めていく上で大切なことです。しかし、「信用」は両刃の剣でもあります。
私がロンドンに留学していた頃の話です。
ロンドン大学付属英国王立小児病院外科に勤務することになった私に、リーダー格の医師はこう告げました。
I don’t believe you.(私はあなたを信じない)
Don’t believe anybody.(誰も信じてはいけない)
初対面の相手に突然そう言われた20代の私は戸惑いました。外科手術は患者の命がかかった究極のチームプレーです。だからこそ医師同士はお互いを信用し合って初めていい仕事を成し遂げられるはずでは? そう考えていたからです。
けれども、実際に彼の下で執刀経験を積んでいくうちに、言葉の真意が見えてきました。相手を信用しているとき、私たちは相手に「うまくやってくれるはずだ」という期待をかけています。
しかし、期待をかけた相手がミスをしたり想定外の事態が起きたりするとどうでしょう? 苛立ちや失望、怒りが生まれ、心が乱されてしまいます。
「順調にいくと思っていたのになぜ?」「そんな想定外のミスをするなんて」と思ってしまうのは、期待が裏切られたからでしょう。
信用する心は美徳ですが、ビジネスの場においてはミスが起きたときにネガティブな感情が生まれ、平常心が失われるというデメリットが生じます。
「誰も信用しない」という意識を持つことは、「他人に責任を押し付けるのではなく、自分が責任を負う」という覚悟と優しさの表れでもあります。
「誰も信じてはいけない」と説いた医師は、私にそのことを伝えたかったのでしょう。
そしてどんな業界でも優れたリーダーほど、いい意味での「誰も信用しない」という矜持を持って行動しているように見えます。