2006年産科医逮捕を経て今なお残る「一人医長」システム

日本の産科医療裁判といえば、2006年の福島県立大野病院事件がよく知られている。帝王切開中に癒着した胎盤の剥離に手間取り、大量出血の末に妊婦が亡くなった。執刀した産科医は逮捕・起訴されたが、約2年間の裁判を経て無罪に至った。

事件の背景にあるのが、輪島病院同様の「一人医長」というシステムである。お産は365日昼夜を問わずいつ発生するかわからないので心身を完全に休めることができない。一人の医師のみで分娩対応することは「一人でコンビニ店番」するようなもので、非常に過酷である。

この福島県での事件報道と同時に、「産科の時間外労働の多さ」「僻地病院の過酷さ」は全国に知れわたり、医学生の産婦人科志望者は激減し、小規模病院ではお産の取り扱いを終了する施設が相次いだ。そして、地方病院は辞めた産科医の後任を確保することは非常に難しい。6年前までは奥能登2市2町には産科医が3人いたが、退職が相次ぎ、輪島病院の男性産科医が最後の1人だったようである。

「産婦人科は女医が良い」が当直・救急・地方勤務に課題

「産婦人科は女医のほうがいい」とはしばしば耳にする意見である。実際、産婦人科の女医率は上昇している。現状、「50歳以下」では女性が多数派であり、新人の7~8割が女医である(日本産婦人科学会員データより)。

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しかしながら、女医は自らの妊娠出産を契機に、非常勤に転じる割合が高い。時間外労働の負担は数少ない男性医師に集中しがちで、2015年には男性産科医の過労死自殺ニュースもあった。近年では、出産後の女医も勤務を続けられるように「シフト制」などの勤務を導入する施設が増えているが、27人の産婦人科医が所属する日本赤十字医療センター(東京都渋谷区)など都市部に限られ、奥能登で同様のシステムを導入することは不可能である。

今どきの若手医師はワークライフバランス重視派が増えており、特に女医はその傾向が著しい。その一部には、「都市部のオシャレなクリニックで、平日の昼間限定で、生理痛や予防接種など軽症者のみに対応」もしくは「分娩当直・救急・重症・地方勤務などのハードな仕事はいたしません」といったタイプの女医も年々増加している。彼女たちは、俗に「ゆるふわ女医」と呼ばれる。