なぜ定番の「しょうゆ味」は強くないのか
ところで、「サッポロ一番(しょうゆ味)」は、みそや塩に比べて強くない。コアな愛用者はいるが、多くの人は「選ぶのは、みそ(塩)」と答える。その理由も聞いてみた。
「先駆者だった、みそや塩に比べて、しょうゆは競争の激しい世界です。当社の即席麺として最初に評判となったのは、塩味の『長崎タンメン』(1964年発売)でしたが、市場を見渡すと、しょうゆ味の即席麺の規模が大きく、活性化していた。そこで、しょうゆ味を投入した経緯もあります」(マーケティング本部 広報宣伝部部長の福井尚基さん)
長い間、小売店では「サッポロ一番(しょうゆ味)」は主に大阪より東で販売され、中国・四国・九州地方は「サッポロ一番 ごま味ラーメン」が販売される、という状況だったという。「それもあって、全国的に“しょうゆ、みそ、塩”の3品がそろう商品ラインナップは、長い間ありませんでした」(同)
外食でも、北は北海道から南は九州・沖縄まで網羅する大手ラーメンチェーンがないように、しょうゆ味は各地によってこだわりが違い、ご当地ラーメン人気にもなっている。
サンヨー食品も、冒頭で紹介した“7つのサッポロ一番”のように、「ごま味ラーメン」「塩とんこつらーめん」「みそラーメン 旨辛」という派生商品で訴求する。
需要が落ち込む時季は「冷やし」で訴求
これから暑い日を迎えると、袋麺の需要は落ち込む。どんな対策をしているのか。
「2017年ごろから『夏は冷やしてサッポロ一番!』を訴求しています。もともとお客さまの中でも、夏は冷やして食べるという声もあり、本格的に訴求し始めました」
サンヨー食品の公式サイトでも「ひと手間レシピ」の中で「夏は冷やしてサッポロ一番!」を特集。作り方の紹介やレシピ提案も行う。
今だけの限定品として「サッポロ一番 みそラーメン〈冷やし焙煎ごまだれ仕立て〉」「サッポロ一番塩らーめん〈冷やし瀬戸内レモン味〉」の2品も発売中だ。5個パックの外袋には「冷・温 選べる」とも記されていた。
アイス業界が、秋冬商品に濃厚な味でも訴求する「冬アイス」で閑散期の底上げに成功したように、即席麺業界も工夫しているのだ。
最近では生麺のような食感の即席麺もあるが、それでも「サッポロ一番」の人気は高い。各方面に話を聞くと、消費者は店のラーメンとは違う味として受け止めているようだ。「あの適度なチープさがいい」と話した人(30代の女性会社員)もいた。
「一度ブランドから離れても、どこかで帰ってくる、戻ってくるような味だと思います」(川井さん)。気をつかわないですむ、居心地のよい実家のような存在か。発売以来、パッケージのイメージがほとんど変わらないのも、それを思わせた。