年金破綻を避けるために国が講じる裏ワザの数々
年金が破綻しないもっとも大きな要因は、政府が年金の破綻に耐えられないことにあります。
仮に、公的年金が破綻したら、すでに政府が「年金をお支払いします」と約束している人たちは、政府を相手に「約束を守れ」という訴訟を起こし、そこで政府はお金を支払わなくてはならなくなります。
全員を対象にお金を支払うとなったら、前述のように約800兆円をまとめて支払わなくてはならなくなるので、それだけで日本は財政破綻してしまいます。
そうならないために、国はいくつもの手を打つことができます。
たとえば、日本の年金の基礎年金部分の半分は、政府が税金からお金を出しています。基礎年金は満額で月約6万円ほどですが、その半分の約3万円は、みなさんが支払った年金保険料ではなく税金なのです。
ですから、破綻しそうになったら、この税金の額を3万円でなく全額の6万円にしてしまえば、破綻しません。
また、「保険料を上げる」「支給開始年齢を上げる」「支払う年金をカット」するなど、さまざまな方法があるので、年金は破綻しないのです。
問題は、年金財政の健全化のために、すでに「保険料を上げる」「支給開始年齢を上げる」「支払う年金をカット」という方法が取られていることです。
みなさんが支払っている年金保険料は、2004年の年金改革で引き上げが決まり、今も毎年少しずつ上がっています。また、支給開始年齢も、55歳→60歳→65歳と引き上げられていて、すでに70歳支給開始も視野に入っています。
そして、もっとも知りたい給付額については、これから詳しく説明します。
実質的に年金をカットできる「マクロ経済スライド」
日本の年金は、もともとは「物価や賃金が上がれば、それに応じて年金額も上がる」という、物価スライド、賃金スライドを採用していました。
けれど、年金行政の見込み違いや無駄遣いなどで年金財政が逼迫し、物価や賃金が上がったぶんだけ年金を増やしていくと、将来、年金原資が枯渇してしまうという恐れが出てきました。
そこで小泉純一郎内閣(当時)は、2004年の年金改革で、物価や賃金が上がっても、年金がそこまで上がらない仕組みを導入しました。これが、「マクロ経済スライド」です。
マクロ経済スライドの仕組みを説明するとかなり複雑なので、ここではイメージでお話しします。
マクロ経済スライドが導入される前は、10万円だったものが次の年に11万円に値上がりするという物価上昇が起きたら、これに応じて10万円の年金が次の年には11万円に増えていました。これが、「物価スライド」です。
ところが、そうやって年金をどんどん支給していくと、将来、年金をもらう人たちの年金原資が枯渇してしまうという状況が出てきて、慌てた政府は、どうすれば支給額をカットできるのかと考えました。
そこで登場したのが、10万円のものが次の年には11万円になっても、年金の額を1万円増やすのではなく、調整して5000円だけ増やす(イメージ)という方法です。
つまり、物価や賃金の上昇ぶんよりも年金が上がる率のほうが低くなるので、実質的には年金をカットできるというのが「マクロ経済スライド」です。