大地震に遭って助かるのは「たんにまぐれの幸運」
こうして見ると、現在の都庁に相当する町奉行所は、被害を受けた人々を救うために、迅速に手を打っていたことが分かる。もちろん、都職員の数とは比較にならない少人数であるが、そのわずかな人数で、大江戸をできるだけ混乱のないようにしようとしていたことは、高く評価してよいと思う。
さて、長敬は、大地震の時にどうすればよいかについて、次のように述懐している。
「出る猶予があれば表へ立退くより外はないが、せっぱ詰まった状況では、学者でも英雄でも工風(工夫)もなにも出るものではない、アーといふ間に家はつふれて来る、其時表へ飛出した人は夢中に出たので助かったので、たんにまぐれの幸運だったにすぎません」
つまり、大地震に遭って助かるのは、行動がよかったというより、運がよかっただけ、というのである。水戸藩では、有名な尊王攘夷の理論家、藤田東湖が倒壊した家で圧死している。見当たらぬ母を案じて躊躇しているうちに、被害に遭ったという。学者でも英雄でも、運が悪ければ死ぬのである。
われわれも、実際に大地震に遭遇すると、思っていることの10分の1もできないかもしれない。しかし、運任せにするのではなく、歴史に学び、できるだけの対策は立てておくべきであろう。