我慢するのは本当に偉いか

【和田】なんか日本って、我慢している人のほうが偉くて、節制できない人を袋叩きにする風潮があるじゃないですか。あれはどうかと思うんですよ。

【中野】袋叩きということでは、東京オリンピックでのある選手はかわいそうでした。オリンピックに出るだけでも大変なことだと思いますが、競技とは無関係に激しく叩かれて。「本人に問題があるのだから叩かれても当然」みたいな風潮はおかしいのではないか。

苦行の果てに金メダルを取るショーを、エアコンの効いた快適な空間から覗き見たいだけで、本当は本人やそのご家族のことなんかどうでもいいのかと、がっかりでした。言うなれば“苦行搾取さくしゅ”でしょう、それは。

【和田】スポーツのパフォーマンスだけ見ていればいいものを、プロセスばかり見ようとするよね。日本人は結果よりプロセスを重視するところがあるから、「物語」を作りたがるんでしょうね。

僕なども、受験で点を取るテクニックを教えようものなら、「そんなズル勉強を教えるな」などとぼろクソに叩かれまくってきました。精神科医という仕事を長年続けてきてようやく、「同じパフォーマンスを出すためには、なるべく苦労しない方法を取ったほうがメンタルにはいい」と言えるようになってきたから、いまは少しマシになってきていますが。

【中野】試験があるのなら、効率よくいい点を取る方法もあってしかるべきなのに。

苦労搾取がデフレ日本の原因

【和田】結果よりもプロセスばかり大事にしすぎると、自分で自分を縛ることになるじゃないですか。

写真=iStock.com/Javier_Art_Photography
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【中野】そうですよね。たぶんバブル期あたりから30年くらいプロセス重視できた結果が、いまの日本、デフレ日本でしょう?

ビジネスは世界に後れを取り、研究者は論文を出せなくなり、経済的には全然成長せず、ITはもはや後進国です。「クールジャパン」も世界的なインパクトを与えているようには見えない。

いまや、日本を魅力的に思って来日する外国人は、実は「安さ」に魅力を感じているだけの状態ではないでしょうか。

【和田】「安いから来る」ただそれだけ。

【中野】日本はそういう国になったんですよ。苦労搾取がその要因のひとつかもしれない。合理的に物事を進められなくなった原因を求めるならそこでしょう。そう私は思っています。