できるコンサルタントはまず社長を褒める

ボストン・コンサルティング代表、ドリームインキュベータ会長を務めた堀紘一さんから聞いた話も参考になりました。

コンサルタントは通常、企業の問題点を明らかにし、改善のためのアドバイスを行う仕事です。仕事ができると認められるには、問題点を鋭く指摘しなければなりません。

ところが堀さんはまず社長に会ったときに、その会社の良いところを褒めるのだそうです。「社長、あなたの会社の社員はとてもいい笑顔で挨拶してくれますね」とか、「会社全体がとてもきれいに整頓されていますね」など、とにかく褒めるべきところを探し、指摘するというのです。

「社長の前でいきなり会社を批判するなんて、絶対にしてはいけないことです」と堀さんは私に断言しました。でも、なるほどその通りですね。

まず相手の良い部分をしっかりと認めた上で、こういうところを直したらさらに良くなると指摘するわけです。

日常の会話もまさに同じでしょう。相手をいきなり否定するところから入ると、相手は身構え、反発します。

とはいえ、私自身は褒め上手というわけではありません。少なくともお世辞めいたことは一切言いません。

そういう人間が無理して相手を持ち上げると、かえって嘘くさくなるのです。

ですから、私は相手を褒めるときは、陰で褒めます。本人ではなく周囲の人に漏らすのです。すると人づてに伝わるでしょう。誉め言葉は人づての方が相手にとって印象が深いと思います。

批判するときは本人の目の前で、褒めるときは陰で、というのが私のやり方です。たいていの人は逆で批判は陰で、褒めるのは表で、となっているんじゃないでしょうか。

いずれにしても、褒めること自体はとても大事なことです。褒めるとは相手を受け入れ、認めることですから。コミュニケーションの上で最も大事なことでしょう。

一国の総理大臣が私の言葉をメモして舞い上がった

コミュニケーションの達人になるには、話し上手になるより、聞き上手になることです。面白いことに、雄弁で知られる政治家や経済人ほど、ふだんは聞き上手の人が多いのです。

かつて総理大臣だった中曽根康弘さんを初めて取材したときのこと。当時私はまだ40代であり、中曽根さんから見れば青二才のジャーナリストにすぎませんでした。

ところが中曽根さんは私の話を聞き、大学ノートを取り出すと、深く頷きながらメモを取り始めました。一国の総理大臣が私の言葉をメモしている。そう考えただけですっかり舞い上がってしまいました。

写真=iStock.com/Mikolette
※写真はイメージです

中曽根さんはどちらかと言うとワンマンで、自分の意見を押し通すタイプに見られがちです。そのギャップと意外性に、すっかり中曽根さんに対する印象が変わってしまいました。

成功している経営者の人たちも、聞き上手な人が多かった。

「経営の神様」と言われていた松下幸之助さんもその一人です。いまから40年ほど前になりますが、その松下さんから、「今度松下政経塾を作るのだけれど、あなたの意見を聞かせてほしい」と頼まれました。

そこで京都のPHP研究所に行って話をしましたが、当時松下さんは80歳を超えていて、私は40歳代でした。

ところが松下さんは子供以上に年の離れている私の話を、真剣に聞いてくれました。東京に帰って来て、「もう一度あなたの話を聞かせてくれませんか」と依頼があり、再度京都で講演した記憶があります。