日本人に刺さったゼレンスキー大統領の演説

「ロシアの侵略と戦うゼレンスキー大統領とヒトラーを重ねるなんて許せない! 謝罪しろ!」という猛烈な抗議がきそうなので、あらかじめしっかりと断っておくが、大量虐殺をした非道な独裁者と、ゼレンスキー大統領に指導者として重なる部分など1ミリたりともない。

ここで筆者が指摘をしたいのは、「外国のリーダーからの呼びかけに対する日本人のリアクション」が80年前も現在もそれほど変わっていないという事実だけだ。

ご存知のように、ゼレンスキー大統領は演説で、「日本はアジアのリーダーとなった」「日本の文化は素晴らしい」と日本をベタ褒めした。そこに加えて、ロシアが核施設を戦場にしたことに触れて、プーチン大統領がいかに人類全体の脅威であることを訴えた。原爆を落とされて、福島第一原発事故を経験している日本にとってこれほど刺さる話はない。

これらのスピーチで、ウクライナへの親近感と、ロシアの危機感が高まって、徹底抗戦を全面的支援するというムードが社会に一気に広まっているのはご存知の通りだ。

そこに加えて、ゼレンスキー大統領とウクライナ国民の「命を投げ出してでも国を守る」という姿勢も、日本の愛国者のハートをガッチリと捉えている。演説後の山東昭子参議院議長のコメントがわかりやすい。

「先頭に立ち、貴国の人々が命をもかえりみず祖国のために戦っている姿を拝見し、その勇気に感動している。一日も早く貴国の平和と安定を取り戻すため、私たち国会議員も全力を尽くす」

「正義の戦い」はエスカレーションしていく

80年前と今では感動している相手は「狂った独裁者」と「英雄」でまったく異なっている。しかし、「アジアのリーダー」と持ち上げられながら、我々と一緒に手を取り合って「人類の敵」を叩きのめそうと呼びかけられて、一気に戦争にのめり込んでいるムードは、80年前と恐ろしいほど酷似しているのだ。

断っておくが、だからアメリカや西側諸国に協力するな、などと言いたいわけではない。今の日本が置かれている状況を考えれば、ウクライナの全面支援をするのも当然だ。ロシアから敵国扱いされてもこの「正義の戦い」に参加しなくてはいけない。

ただ、歴史を学べば、「正義」を掲げた戦争の多くは一度始まってしまうとなかなか止められないでエスカレーションして結局、犠牲になるのは指導者ではなく国民という厳しい現実がある、ということを指摘したいだけだ。

エスカレーションしていく最大の理由は、「支持率」である。