「紙1枚」書くだけの古典活用法

ここでは、安岡正篤さんの『運命を開く』を取り上げます。

安岡正篤『運命を開く』(プレジデント社)

「安岡正篤なんて、そんなに古い本じゃないのでは」と感じた人もいるかもしれませんが、私と同じ80年代生まれ以降の友人知人で、安岡正篤さんを知っている人はほぼいません。

何をもってクラシックとするかは主観的で構いませんし、「目的は名言と親しむこと」なので、どの本でやるかは柔軟に捉えてください。

この本には、「有名無力 無名有力」なる言葉が登場します。個人的にとても響いたので、この名言を血肉化するべく、今回「紙1枚」にまとめてみたわけです(図表2)。

「A?」に「有名無力 無名有力」と書いたら、今度は周辺のフレームを記入していきます。

この名言について、「What?」「Why?」「How?」の3つの疑問を解消するように思考整理するとしたら、一体どんな問いを立てるべきなのか。

緑ペンを持ちながら、自分なりに様々な質問を考えてみてください。「深い」思考を働かせ、今回は最終的に、「どういう意味?」「なぜ響いた?」「どう活かす?」と記入しました。

後は、各問いの答えを青ペンで埋めていきます。

いきなり埋められない場合は、書籍の該当箇所を改めて開き、名言の周辺を読みながら役に立ちそうなキーワードを拾っていきましょう。それらを左半分の空きフレームに埋め、キーワード集として活用しながら、ポイント3つ以内で右半分をまとめていけばOKです。

最後に、残った「Q?」も埋めてみます。

この名言が響くような悩みやシチュエーションを設定し、「有名無力 無名有力」が回答になるような質問文を、逆算的に書いてしまうのです。この例では、「成功してしまったら、まず最初に知っておくべき名言とは?」を問いにしました。

ただ、「Q?」の記入は必須ではありません。難しければ空欄のままでも構わないのですが、こうやって埋めておくことで、様々な場面で役立つ可能性を高めることができます。

今後もし、例えば職場の部下や後輩に慢心が見えてきたら……。あるいは、組織全体が過去の成功体験に固執していることに危機感を抱いたら……。

そんな時に、面倒でも予め「Q?」を埋めておけば、この名言を思い出す際のトリガーになります。実践機会が少ない現段階ではピンとこないかもしれませんが、忘れてしまうこと自体は、大きな問題ではありません。それよりもはるかに大切なのは、「思い出せる」こと。

そのために、こうしたひと手間をかけ、思考を「深める」体験をしておきたいのです。

「3年分くらい名言のストックができました!」

無事に想起できれば、あとは資料やプレゼンの場でガンガン引用していきましょう。

例として、営業部門の定例会議におけるマネジメントからの冒頭挨拶のイメージを載せておきます(今回は必ずしも「紙1枚」に沿って話す必要はありません)。

“昭和の頃、多くの成功者や政治家が師事した安岡正篤という人がいます。
「有名無力 無名有力」は、そんな安岡さんの言葉です。
成功して有名になれば、それだけ忙しくなる。慢心もする。
その結果、自身の成長を怠ってしまう。
次第に無力となるが、相変わらず有名であるプライドには固執する。
「有名無力 無名有力」は、そんな本質が凝縮された8文字だと私は思います。
わが社は昨年、過去最高益を達成しました。
一方、今年の業績はどうでしょうか……。去年の成功体験に浮かれ、業界的にもチヤホヤされた結果、我々は今、まさに「有名無力」に陥っていないか。
この8文字を念頭に置きながら、今日の会議に臨んでください。では、始めます”

以前、社長秘書をされている受講者さんがいて、その方は毎月の訓示的プレゼンの資料作成に悩まれていました。そこで、この「紙1枚」と類似の型を手渡したところ、「3年分くらい名言のストックができました!」と言って、パワフルに活用してくれていました。

たとえそのような業務に従事していない人であっても、このフレームワークが身近になれば、様々な古典(作品)や偉人(作者)への親近感を高めていけるはずです。

「紙1枚」にまとめる読書法に慣れる意味でも、ぜひ気軽に取り組んでみてください。