人前で緊張せずに話すにはどうすればいいのか。日本テレビアナウンサー藤井貴彦さんの著書『伝わる仕組み 毎日の会話が変わる51のルール』(新潮社)から、「あがり症を克服する方法」を紹介する――。(第2回)
スピーチを恐れて発汗する男性
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緊張を和らげるシンプルな方法

緊張は、初めての経験や慣れない場所で起こりやすいのはご存じのとおりです。よく、受験生の皆さんが受験会場までの道のりを事前に歩いて確認しますが、こういう工夫が実は、緊張しやすい方にはかなりの効果があります。

日本テレビアナウンサーの藤井貴彦さん
日本テレビアナウンサーの藤井貴彦さん(写真提供=新潮社)

私は以前同僚から、「国立競技場で実況するんだけど、ものすごく緊張している。どうしたらいい?」と聞かれたことがあります。

実は私も旧国立競技場での実況はとても緊張しました。あの厳かな建物の雰囲気にのまれていたのです。建て替え前の国立競技場は、放送席まで階段を使って上がっていきます。

もちろんエレベーターはありますが、それは解説者や重役の方が使うものであって、私たちはたいてい階段を使います。ですから放送席に着いた時には呼吸が荒れています。そのため、緊張も相まって中継のスタートまでに心拍数が落ちてくれなかったのです。

そんな経験から同僚には「もし機会があれば、当日と同じルートで放送席までの移動練習をしてください。そしてできるだけ緊張しておいてください」と伝えました。

同僚は実況の「内容」についてのヒントやアドバイスを求めていたようでしたが、もう十分な実力の持ち主だったので、力が出しきれるように、荒くなる呼吸も含めて「緊張のリハーサル」をしておいてほしかったのです。

実力以上を披露しようとしないほうがいい

緊張を想像してみること。
そして自分から緊張を迎えに行くこと。

これは、あまり多くの人がトライしていないことだと思いますが、根を詰めてしまっている時ほど、大切なことを忘れてしまいます。実力は蓄えたけれど、それを出しきれなかった経験は誰にでもあるでしょう。

緊張した自分が本番でどうなるのかを、シミュレーションできていなかったのかもしれません。一度緊張としっかり向き合い、迎えに行くことが効果的です。

本番に強いと言われる人は、出たとこ勝負が強いのではなく、緊張に負けた経験があるか、しっかりとした緊張のシミュレーションができる人なのかもしれません。