そうは言っても、緊張と向き合うのはとても難しいですね。緊張する理由が分かっても、取り去ることはできません。例えば数学の問題であれば解き方が分かった時に全てから解放されますが、こと緊張に関しては理由が分かっていても緊張は解けません。

公共の場所でパニックになる女性
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
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では緊張とどう向き合えばいいのでしょうか。私はこう考えるようにしています。

「相手のための緊張に変える」

緊張とは大抵、自分がうまくやれるかどうかが心配で起こるものです。もっと言うと、自分の実力以上のものを披露しようと思っている場合に起こります。

つまり緊張とは自分の内側でのみ起きている現象なのです。緊張している人に対して、どれだけ「大丈夫だよ」と励ましても、緊張を取ってあげられないのはそのためです。そこで私が実践しているのは、自分に向かっていたエネルギーのベクトルを外に向けることです。

自分のための緊張を減らす

例えば、大切なプレゼンがあったとします。スタートは「自分がうまくプレゼンできるか不安」「言い間違えたりしないか不安」といった感情がわいてくると思います。その感情を誰かのための緊張に変えてみるのです。

「この提案はこの会社にとって大きなメリットになるからしっかり伝えたい」
「多くのプレゼンを聞いて疲れているだろうから、要点だけでも伝えたい」

こんな風に視点を変えてみるのです。

緊張の内向きエネルギーも「エネルギー」です。このエネルギーを利用して、誰かの役に立とうとすると不思議と緊張は軽減されていきます。

また、思ったほど緊張が軽減されなかったとしても、それが相手のための緊張ならば、本番では案外まともなパフォーマンスができるのです。

私は、ニュース番組で発音ミスをした際に、その回数を「噛んだ回数」としてカレンダーに記していますが、その原因を分析するとほとんどが自分への緊張なのです。

「このままいけば、今日はノーミスだ」なんて考えた直後に必ず噛みます。ノーミスで終えたいなんて自分のための欲が出る時点でアウトです。人間の器が小さすぎて、恥ずかしくなります。

一方で視聴者に伝わるようにとニュースを読んでいる時は、不思議と噛みません。もちろん、たまに噛んでしまうこともありますが。でも、聞いてくれている人のことを考えて、丁寧に読んだ結果のミスなら自分も納得します。

自分のための緊張を減らすことが、緊張と向き合う上で大切なのです。

緊張を和らげるとっておきの方法

「目の前の聴衆をじゃがいもだと思え」

こんなアドバイスを皆さんも聞いたことがあると思います。これは、他人の視線を気にするなという教えを含んでいるのだと思います。ただ、聴衆を「じゃがいも」と思うことは難しいですし、じゃがいもの前で話すなんてイメージも湧きづらいですね。

実は、私も人前で話すことが苦手でじゃがいも作戦を試してみましたが、それほど効果はありませんでした。何十年アナウンサーをしていても、やっぱり人前で話すのは緊張します。