映像配信サービスによる共生圏が生まれつつある
本連載の第4回<「日本の携帯大手と正反対」ネトフリが幽霊会員をわざわざ退会させてしまうワケ>で指摘したように、映像配信事業者の間では、こうした事態の協調的解決のために、囲い込みをあえて放棄し、競合他社との共生を図る道が模索されている。幽霊会員に離脱を促すNetflixの戦略は、その代表例である。
ユーザーがオリジナル作品を求めてサービス間を渡り歩くことを前提に、各社がユーザーの参入・離脱の自由度を高める、映像配信事業者同士の共生圏が生まれつつあり、われわれはこうした共生圏を「カスタマー・サーキット」と命名した。
カスタマー・サーキットの出現は、「見たいコンテンツがない」というユーザーの不満を、コンテンツではなくユーザー自身に起因する問題と捉え直した結果といえる。
事業者がこのカスタマー・サーキットに参入できるか否かは、一定量のオリジナル作品を提供できるかどうかにかかっている。これはハードルの高い参入障壁であり、その意味でこの共生圏は新興勢力に対しては排他的で、実質的に「既存大手事業者による共同囲い込み戦略」になっているともいえる。
なぜネットコミックは「旧作なのに有料」なのか
第2の事例として、ネットコミックの新作無料モデルを「3つの負担免除」の視点から検討してみたい。
ネット上で連載されているコミックのうち、新たに公開された部分(新作)を無料とし、一定期間が過ぎたらそれを有料とするビジネスモデルである。
かつての購買モデルでは新作の視聴価格が高額で、旧作になるほど安くなる設定であったが、このモデルではそれが逆転している。
コミックの場合、それまでその作品をまったく読んでいない人間が、ストーリーの文脈を知らないまま無料の新作を見る動機は低い。したがってこのモデルは、公開当初に無料で作品を見ていたアーリーアダプターによる評価(クチコミ)を通じて、新規ユーザーを旧作、あるいは自社サービスに招き寄せる戦略である。
無料コンテンツの設定は、SNSでの拡散を指向して行われるのが定石である。SNSでの拡散により、そのコンテンツを選好したアーリーアダプターによる、類似した嗜好を有する消費者への伝播(潜在顧客へのリーチ)が期待できる。
最初期から作品を見ているアーリーアダプターは常に無料で最新作を楽しみながら、後に続くファンに作品をSNSで「推す」ことで、マーケッターとしての役割を果たしている。